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若冲 澤田瞳子著 文春文庫(2017年4月発行)

これは広く知られるようになり、一大ブームを巻き起こした伊藤若冲を主人公にした長編小説です。2013年から2015年にかけてオール讀物に連載されており、8つの物語から構成されています。

ちなみに自分は若冲を「奇想の江戸挿絵 (集英社新書ヴィジュアル版)  辻 惟雄著」で知りました。手元の本が見つからなかったのでアマゾンでご容赦。

長編なので、それぞれの物語はひとつながりとなり、若冲の生涯が描かれているのですが、それぞれに事件などがあり飽きさせません。時代小説ですから歴史的事実とされている事件はもちろん、作者の創造した事件も含まれることでしょうが、全体の骨格をなす、若冲の画への執着については史実では確認されていない妻の存在が大きくかかわっているため、全体としてフィクションとして捉えたほうが良いと思います。

そのためか、物語がダイナミックでとても面白いです。今に残る若冲の画について本文中にも登場するのですが、ついついネット片手に読書をしてしまいます。

少し物語に触れますと、若冲の妻、三輪が自害したのちより家督を譲って画に一層のめりこむようになった若冲(当時は源左衛門)。その姿を許せなかったのが三輪の弟である弁蔵でした。

その後弁蔵は若冲の前から姿を消します。若冲は妻への贖罪の気持ちを胸に画に入れ込む中で自分とそっくりの画を町中で見つけます。それは復讐に燃える弁蔵が描いた画でした。衝撃をうける若冲。自分が唯一よりどころにしている領域に復讐心をもって乗り込んできた弁蔵に対し、悩み惑いながらもより高みを目指して画を描き続ける若冲の姿にずいずい引き込まれていきます。

他にも実際にあったとされる錦市場存続問題についても大きく触れられています。このあたりはミステリーとまではいいませんが、知的好奇心をくすぐられる展開となっていて、また違う味わいがあります。

晩年になり、様々な困難や悩みを未だ解消できないまま、知名度も増してきた若冲。因縁浅からぬ弁蔵との決着はつくのかも見所ですが、池大雅、円山応挙、谷文晁をはじめとする「鑑定団」でおなじみの方々も登場し、物語を盛り上げてくれます。

フィクションでありながら、時代の風合いをそのまま切り取ってきたかのような瑞々しい文章がとてもうつくしい本でした。

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