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「具体」と「抽象」〜講師の「具体化」テクニック〜

講師の「具体化」テクニックを伝える前に、まず「具体」とは何か?を押さえておきましょう。
具体」といえば必ず登場するのが「抽象」という概念です。
具体とは何か? 抽象とは何か? ということを考えてみます。

講座で伝えることとは

講師が講座で伝えることといったらどんなことでしょうか?

まず、知識や情報がありますね。

ノウハウ、つまり物事のやり方、進め方などもありますね。

さらにもっと、高度なメソッド(方法、手法)といったものも含まれます。

これらのコンテンツ(ここでいうコンテンツは内容、といった意味です)を総合すると、どんなものでしょうか?

私は、これらすべて、抽象化されたものだと思います。

抽象とはなにか?

技術でも学問でも、はじまりは「経験」です。
実生活で経験したことがもととなっています。

しかし、自分の経験をそのまま話したら、たんなる経験談、よもやま話です。講座にはなりません。

「こんなことがありましてね」「へぇー」
で終わってしまいます。

いくつもの「経験」をまとめて考えることによって、何かの法則がそこに見いだせたりします。
たくさんの「経験」をまとめて考えて、一般化したものが、知識であり、ノウハウです。
さらにそれらの知識を体系づけたものが、学問だったりします。

多くの経験を一般化し、普遍化する知的な作業を、抽象化と呼んでいます。

抽象化を酒づくりにたとえてみる

以上のようなことは、少し理解しにくいかもしれませんから、ひとつ酒づくりにたとえてみましょう。

酒というものの原料は、穀物であったり果実です。
これが個々の経験にあたります。

多くの原料が集められ、砕かれ、酵母菌などによって発酵させられます。
いわば経験全体を俯瞰して考えているようなものです。
この工程が一般化といえるでしょう。

こうして出来てきた酒が、醸造酒。日本酒やワインなどです。
知識ノウハウなどはここに当たるでしょうね。

醸造酒をさらに蒸留してアルコール濃度を上げることがあります。
不純物を少なくし、純粋なアルコールに近づけるのです。
この工程は理論化のようなものでしょう。

こうして蒸留酒、ウィスキーや焼酎が出来上がるのです。
理論というのは、ちょうどこういうものでしょうね。

蒸留酒になると、原料の面影はほとんどなくなります。
理論をいくら学んでも、もとの経験を知ることができないのと同じです。

具体とは何か?

Weblio国語辞典によれば、具体とは「物事が、直接に知覚され認識されうる形や内容備えていること。「—案」⇔抽象。」と描かれています。

直接に知覚され」というのは、ほぼ目に見えるor音として聞こえる、ということです。

認識されうる形や内容」をそなえている、というのはどういうことでしようか?

「頭の中で、目に見えるような形を持っていたり、音として聞こえるような内容を持っている」と解釈すれぱよいでしょう。
つまり、イメージとしてでも目に見えたり、音として聞こえればよい、ということです。

抽象的な話はなぜ伝わりにくい?

知識やノウハウのもともとのはじまりは「経験」です。
これは、目に見える現象であったり、音として聞こえる言葉であったりします。

しかし、それが抽象化されることによって、目に見える、音として聞こえる部分を失うことになります。

抽象的な思考になれていない人も、いるのです。
こういう人は、常に具体の世界に生きています。
目に見えるもの、音として聞こえるものを思い浮かべることには慣れています。
しかし、いっぽうでは、目に見えないもの、音として聞こえないことを理解することには慣れていません。

だから理解できなくて「それってどういうこと?」という言葉をくり返したりします。

こういう人に対しては、いったん伝えることを目に見える、耳に聞こえるかたちに置き換えてあげることが有効です。

具体化された表現物

たとえば、漫画です。
漫画は、常に目に見えるかたちに描かれます。
登場人物の会話や、ト書きなどは文字として書き込まれています。
直接耳に聞こえるわけではありませんが、文字が読める限り、イメージとして耳に聞こえてきます。

マニュアル本の一形態として、漫画化されたマニュアルというものがあります。これなどは、具体化の工夫のひとつです。

映像も具体化されたものです。
というか、具体化されたものしか、映像にはなりません。

このようにビジュアル的に工夫された表現は、具体化の一例だということができます。

表現技術としての「具体化」

具体化のテクニックは、抽象的であるがゆえに伝わりにくい事柄を、一時的に具体、つまり目に見えて音として聞こえるイメージに落とし込むことです。

それは、抽象的な事柄を、一時的に認知しやすいかたちに「包み込んで」伝えるといったものです。

伝わらなければ何事も起こらないのです。
とにかく、形を変えてでも伝えるという必要がある場合には、こういう具体化テクニックは有効なものだと思います。

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