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2015.8.2 「おいしいもの、幸せ」

医師から、3度の食事以外におやつや栄養補助食品で食事量を補うように言われていた。けれど、お腹が空かないのに、おいしいと思えないのに食べるのは、簡単なことではない。

 夫がレストランで食べた桃のコンポートがとても美味しかったからと、インターネットで作り方を調べて挑戦してくれた。初めてのことで苦労したようだったが、なかでも綺麗にできあがったひとつを母に取り分けてくれた。

 「パパが作ってくれたよ。」とその様子を面白おかしく話しながら、半分の桃のコンポートを差し出すと、母は「こんなに食べられないよ。」と言う。残してもいいからと促すと、あっという間に平らげた。珍しいことだった。

 喉ごしのよさ、冷たさ、香り、甘さ。それはいまの母に最適なおやつだった。でもそれだけじゃない。手の込んだデザートから家族の想いを感じたのだ。おいしいってそういうことだ。

 その日、母はしみじみと「おいしいものが食べられると、幸せだ。」と言った。