2015.5.5 「元気になったら」

 子供の頃から、母の日には何かしらプレゼントを用意した。お小遣いで買えるだけの数本のカーネーション。庭で季節を楽しんでほしいから赤く紅葉する木の苗。お料理上手だから新しい包丁。小銭が取り出しやすいお財布。毎年あれこれと悩んでいたのは、今思えば、母の毎日が楽しくなるようにと思っていたのだった。

 この年は、どこへでも歩いて行く健脚自慢の母に、雨の日の買い物が楽しくなるようなレインコートを選んだ。母が生まれた家のそばに植えられていた大きな百日紅の花に似た、鮮やかだけれど上品なピンク色で、一目見て小さな母に似合うだろうと思った。

 出歩けなくなった母に「元気になったらそれを着て歩いてね。」と言って渡すと、珍しく声をあげて喜んだ。早速着て、カメラに向かって満面の笑みを見せてくれた。いつになくはしゃぐ様子に、笑いつつ、冷やっとした感じがしたことを思い出す。それでも、これが最後の母の日になるとは、1ミリも想像もしなかった。