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Web3 仕組みを知って、静観しよう

「web」というのは不思議なモノで、最も身近でありながら、よく考えると最も知覚不能な世界のひとつです。

見ることも嗅ぐことも、触ることもできません。私たちが知覚できるのはせいぜい、金属でできた「コンピューター」という名前の塊と、その表面に映った文字や映像だけです。

webサイトの開発コードは数字・アルファベット・記号で構成されますが、では「数字・アルファベット・記号=web」かと言われると、直感的に違和感を感じるのではないでしょうか。

このように、「web」に関する最適な定義付けは非常に難解であり、そして本稿のメインテーマではありません。

しかし、Webは私たちに何をもたらすのか?という点については、様々な歴史的事例から考察することができます。

そこで本稿では、webにおける2023年時点でのバズワードの一つ、「Web3」について、そのインパクトと限界を考えてみたいと思います。

それを踏まえ、これからの私たち一般人が、Web3とどう付き合うべきか、私なりの補足を入れたいと思います。


参考図書:シリコンバレーのエンジニアはWeb3の未来に何を見るのか

Web3に関して、今回参考にした本は、2023年1月に発売された中島聡氏の新著です。

メモ【中島氏の主張ポイント5つ】

①Web3の技術的魅力や理念は、素晴らしい。

②一方で、技術の発達より先に投機ビジネスが盛り上がってしまい、「金銭欲につけこんだ詐欺・搾取」が蔓延っており、法の整備も追いついていない

③投機目的ではなく利他的動機で始まったビジネスも、結局は運営者のリーダーシップに依存しており、本来の組織運営からは程遠い

④まだまだ未開拓の分野なので、エンジニアは自分でコードを書きながら理解を深めていくべき。でなければイノベーションは起こらない

⑤社会を真によりよくするためにWeb3の技術を使いましょう

通読したうえで、筆者(唐木)が独自にまとめました


元Microsoft社員だった中島氏は、あのWindows95、そしてInternet Explorerの開発者。Webの黎明期からインターネットの発展を牽引してきた1人です。

彼のメルマガ「週刊Life is Beautiful」も、事実に基づく考察が素晴らしく、元マッキンゼーの赤羽雄二氏からも「とても尊敬している人」と評されています。

ということなので、数あるWeb3解説本の中で最も信頼に足りうる本の一つと判断し、活用いたしました。

先にお伝えすると、本書内でのWeb3に対する中島氏のスタンスは中立的です。その技術的魅力は認めつつ、Web3業界は大混乱中であることも見抜いています。

さらに、自分でNFTを手作りしてみたりスマートコントラクトを設計したりと、他人の又聞きではなく自分で手を動かしながら、実験を通して理解を深めようとする姿勢も非常に好印象です。

非エンジニアであっても、一流の仕事人としての姿勢を学べるので、とてもオススメです!

Web3が目指すは「ボス不在でも回る世界」

Web3は、「ボスがいなくとも回る世界」を目指しています。

中島氏はWeb3を以下のように説明しています。

一言で言えば、これまでのインターネット上のサービスのように、企業や組織がそのサービスやコンテンツの維持に関わるのではなく、ブロックチェーン技術を用いて、不特定多数のコンピューターに支えられたネットワーク上で、サービスやコンテンツを維持する仕組みです。

kindle版p.17
kindle版p.25


「ブロックチェーン」とは、分散型台帳システムとも呼ばれ、

  • 取引や資金移動を記録する

  • 永久に保存できる

  • みんなにオープンになっている

  • 改竄できない

  • 人の手を介さなくても、予め決められた決済処理が自動的に行われる
    という特徴をもちます。

根本的発想にあるのは、特定の企業のPCが計算処理・サーバー維持をするのではなく、不特定多数(数千~数万)のユーザーのPCが代わりに支える、という点。

※支えているPC=マイナー(採掘者)

(左図)kindle版p.38を元に、加工

ただ、支えると言っても、善意というより100%利益目的のようです。

一番最初に暗号を解いた(仮想通貨の取引承認をした)マイナーは、億単位の莫大な報酬を得られるんだとか。そりゃあ、目の色を変えてマイニングしたくなりますよね。

マイナーは仮想通貨の取引の承認を行い、ブロックの生成を手伝う見返りとして報酬を得ています。

報酬は、「マイニングした通貨を決められた枚数だけもらえる」というケースが一般的です。例えばビットコインの場合、1回のマイニングの成功報酬は6.25BTC(2020年11月現在)というのがルールで決められています。

仮に1BTC=100万円だとすると、ひとつの取引の承認作業を行うだけで、625万円ももらえることになります。前述したように、ビットコインの場合は10分でひとつのブロックが生成されるので、一日に獲得できる報酬の総額は9億円になります。

暗号資産(仮想通貨)のマイニングとは?仕組みと実践方法を初心者向けに解説!


とはいえ、これだけだと「だからなんなんだ」ですよね。

でも、Web1.0、Web2.0との比較によって、Web3の意味合いが非常に明確になります!

ものすごく端的に言えば、

・Web1.0=一部の人のwebサービス(ホームページなど)を、ただ見るだけの時代
・Web2.0=プラットフォームが存在する限り、誰もが手軽にコンテンツを発信できる時代
・Web3=特定のプラットフォーマー(=ボス)がいなくても維持される世界

です。

kindle版p.20

改めて、ボス不在でも維持されるとはどういうことでしょうか。

ここでいう「ボス」とは、みんなの資産(お金、情報)をすべて握っている人のことです。
株式会社であれば社長、Web2.0時代でいえば、googleやSNSプラットフォーマーです。

株式会社におけるボスの重要な役割として、「予算配分」「報酬支払」があります。

リーダーの指令に従って報酬が支払われたり、役員や部門長同士のディスカッションによって予算配分が決まったりします。

しかし、Web3のコンセプトでは、リーダーがいなくても、ディスカッションなんてせずとも、ブロックチェーンを支えるマイナーに自動で報酬が支払われる、ということ。


言い換えれば、個々人が自分の利益を追求するほど、サービス全体を支えていけるため、自律型でサービスを維持できる、という仕組みです。

つまり、個人の利益追求と、集団にとっての利益が完全に一致している世界が、Web3の目指す理想なのです。

Web2.0は、一見安定しているようで、実は不安定

でも、これまでのweb2.0でも十分な気がしますが、一体何がまずいのでしょうか。
その最大の課題は「不安定性」だと言われています。

あるプラットフォームを使い続けるということは、ユーザーがこれまでプラットフォームに蓄積してきたコンテンツや社会的繋がりが、運営企業の判断一つで、いとも簡単に消されるということを意味しています。

たとえば、2021年にトランプ元大統領のTwitterアカウントが、Twitter社によって凍結されたというニュースは、記憶に新しいでしょう。

ツイッター社、トランプ氏の個人アカウントを永久凍結 各社がSNSパーラーを凍結や削除


2023年6月にLINEブログの終了が発表され、私が長らく愛読していたLINEブログ「白ごはん.com」も、他サービスへの移動を余儀なくされました。

LINE BLOG、6月29日にサービス終了

つい最近も、Twitterの動作が90分間止まったというニュースがありましたね。

Twitter was down for about 90 minutes Wednesday, telling users they’d hit their daily limit on posts


つまり、プラットフォーマーという巨大なボスに依存した日常は、一見安心安全に見えるようで、実は非常に不安定な状態だと言えます。

そのアンチテーゼとしてWeb3が提唱されたそうです。

生殺与奪を握る圧倒的なボスがいないから、サービスが維持される。
サービスが維持されるから、自分が生み出したデジタルコンテンツは誰にも消されず、自分が死んだ後も後世に残り続ける
、というコンセプトですね。

※この仕組みは、「愛着障害の世代連鎖」と似ていますね。自分のお祖母ちゃんお爺さんが愛着障害だと毒親になってしまい、その子供(お母さん、お父さん)にも愛着障害を学習させてしまいます。お母さん、お父さんが愛着障害だと、子供(自分)も愛着障害に侵されます。

このサイクルが永遠にRepeat after meされることで、本人が死んだ後も、末裔の代にまで愛着障害が遺ってしまう、という現象と同じですね!

※この説は、私個人の補足です。中島氏は一切触れていません


さらにWeb3では、ブロックチェーン上に記入した契約内容もずっと残ります。当初の契約で決めた収益率が第3者に改竄されることはなく、さらに(契約内容次第では)転売されたときも収益が自動的に入ってくるようにすることもできます。

利益のとりっぱぐれがないので、コンテンツ作成者としては福音でしょう、というわけですね。

これだけだと「素晴らしい!!!」となりがちですが、ここからが要注意です。

Web3業界は、搾取ビジネスが横行している

web3.0ではなくあえて「Web3」と表記しているには理由があります。

実は、「Web3」という言葉は暗号資産界のポジショントークから生まれた表現なのです。

Web3とは、暗号資産・イーサリアムの共同創設者のひとりであるギャヴィン・ウッドが提唱したアイディアです。
(略)
Web3という言葉が誕生するまでは、暗号通貨、マイニング、NFTなどのブロックチェーン技術の周りを一言で表す言葉がありませんでした。
それらすべてを「Web3」という言葉にまとめて、次世代のインターネットのビジョンとして提示したマーケティング手法は天才的といえるでしょう。
技術的な観点でいえば、「Web3」というよりも、「暗号資産業界」といったほうが実態を表しているかもしれません。

中島氏の著書より抜粋。太字はあーるん注

Web1.0、Web2.0は技術発展にともなう時代の変化を指していますが、Web3はWeb2.0の発展形を指す言葉ではありません。

技術の次元というより、取引の裏側に暗号資産があるよという意味なのです。言葉の由来が全然違います。

中島氏の書籍より


実際、Web3技術は、理想にまだ全然追いついていません。
本来だったら技術が先に発展し、あとから「Web3の時代に入った!」と表現すべきなのですが、現状は名前(と投機)が先行してしまっているのです。

たとえば、Web3技術のひとつであるNFT

NFT(Non-Funrible Token:代替不可能なトークン)は、ブロックチェーン技術によって間違いなく本物と証明することができる「デジタル鑑定書」といったことになります。
アートのデジタルデータ自体は簡単にコピーできますが、アーティストがお墨付きを与えたNFTは一つしか存在しません。

中島氏の著書より

NFTによって「唯一無二」というお墨付きを付与することで、デジタルデータに資産性をもたせることができると言われていますが、鑑定書は偽造できなくとも、データ部分はコピー可能です。実際、NFTとして得た画像や動画は、ふつうにPCにダウンロードできます。

なので、デジタルデータコピー問題の本質である「アイデイアをパクられる」は、依然として残っています。


さらにひどいのは、唯一無二だからこその「搾取ビジネス」もまかり通ってしまっています。

NFTの販売方法は、リリース前からコミュニティに人を集め、早くから参加した人たちだけがNFTを誰よりも早く安く手に入れる権利」をもらえる、という状況を作り出し、希少性を煽ることで即日完売を成功させるのです。

Web3の信奉者たちは「Web3の時代になれば消費者も利益を分かち合うことができる」と言いますが、その「分かち合う利益」の大半は、この手の「先行者利益」であり、その原資は「インフルエンサーのポジショントークに影響されて後から参加した人たち」の財布から来ている、という図式になっていることもあるのです。

ここまでくれば、「ボス不在」なんて理想はどこ吹く風やら。
むしろ、Web3利用の先行者がプラットフォーマー以上に巨大な力を働かせて利益を吸い上げている、という逆説的な実態が生まれています。

「人類は神のもとに平等である」を謳いながら殺戮の歴史を繰り返した某宗教と同じ構造ですね。

また、Web3技術の目玉であるブロックチェーンスマートコントラクト。

【用語をざっくり解説】
■ブロックチェーンとは…Web3技術のインフラ的立ち位置。取引データを記入する分散型台帳。一度データを記入すると全員に公開され、改竄できない。

■スマートコントラクトとは…ブロックチェーン上で動くアプリ。あらかじめ設定された「指定の条件」がそろったときに、自動送金する仕組み。

それも、問題性が指摘されています。

ブロックチェーンが不変であるという性質は、スマートコントラクトの修正が基本的に不可能であることも意味している。
システムは不変で追記のみ可能にすることが目的なので、スマートコントラクトを更新するには、新しいコントラクトに完全に置き換え、古いトークンをそちらに移行させるしかない。

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人の手を介さず自動でプログラムを実施するということは、融通がまったく利かないということ。なので、スマートコントラクトに脆弱性が見つかっても更新できません。

※もし脆弱性が見つかったら、契約者全員が新しいスマートコントラクトに引越しするしかないのですが、その際もブロックチェーン利用料(ガス代)がかかります。暗号資産は過去何度もハッキングに遭っており、取引額が集まるほどハッキングリスクが高まります‥‥

そして、勘の良い方はここでお気づきかと思いますが、そもそも契約自体が詐欺的なものであれば、スマートコントラクトを更新できないことがかえって仇になります。

取引の開始条件を相手側に依存するなど、消費者にとって不利な契約をしてしまうと、お金を持ち逃げされても泣き寝入りするしかありません。
やりたい放題ですね。

有名な詐欺のひとつに、Netflixのドラマ「イカゲーム」を題材にしたPlay to Earn(P2E)のゲーム(プレイヤーに報酬を与える仕組みのゲーム)がある。このプロジェクトの制作者が独自のトークンとして「Squid Game token(SQUID)」を発売したところ、1週間足らずで価値が2,300万%近く上昇したのだ。

ところが、このトークンのスマートコントラクトは、プレイヤーがゲームで獲得できるトークン「Marbles」をいくらか消費しなければSQUIDトークンを販売できない、という内容だったのである。こうしてプロジェクトは1週間後、ゲームが始まる前から頓挫した。そして制作者が資金をもち逃げしたことで、SQUIDトークンは無価値となっている。

ゲームが開始されないとMarblesトークンは獲得できないので、SQUIDトークンを購入したユーザーはトークンを記念品としてさえ売却できなかった

SQUIDトークンを管理するスマートコントラクトの規約に従うと、SQUIDトークンはこのまま投資家のウォレットに永遠に残ることになる。

ブロックチェーンの匿名性が失われる? NFTが浮き彫りにしたセキュリティ面での課題

なので、Web3技術があっても、消費者が詐欺に対抗するためのリテラシーをもたなければ、取引のリスクがむしろ跳ね上がるだけです。

このように、Web3界隈の儲け話やポジティブニュースは、その99.9%が「詐欺・搾取ビジネス」または「ポジショントーク」と言われています。

なので、Web3業界の業者の「Web3って素晴らしいよ!これからの時代は、Web3へと確実に移行するよ!」という主張は、ちょっと引き気味で見た方がいいでしょう。

Web3に惑わされない、ただし動向はウォッチしよう

Web3は「Web2.0時代に続く革命だ」と言われることがあります。

たしかに、「透明性、改竄不可能、永久維持」という点では、ある意味これまでのインターネットシステムとは違う次元のように見えます。

しかしよく考えてみれば、技術革命も思想革命も、およそ「革命」と言われるものは、人間の本性にほとんど何も影響を与えないのです。

デジタルが無い時代から、人類は何度も「革命」を経験してきました。その過程で民主主義や共産主義が生まれ、産業が発達しました。
しかし、どんなに革命を起こしても詐欺や戦争、格差や差別は一向に根絶されていません。

高邁な理念を掲げたキリスト教ですら、腐敗した聖職者に利用され、1000年間ものあいだ搾取の隠れ蓑として使われました。

他人を陥れてでも私利私欲を追及しようとする性質、
自分たちだけを優越視する性質、
既得権益を守るために理不尽な制度を作る性質、
自国を守るために理不尽な戦争をしかける性質‥‥

人間の「闇」は有史以来何も変わっていないし、どれほど技術が高度化してもこれからも変わらないでしょう。

新しい技術は、お金を生むからこそ先行者が群がり、もてはやされます。
そして、「乗り遅れたら損するよ!」「乗らないと天罰が下るよ!」と煽ってくるでしょう。

しかし、ビジネスとして運営される以上、「後発者が増えるほど先行者が得をする」という構造をいつも念頭に置くべきでしょう。

なので、私たちビジネスパーソンは、Web3(あるいはそれに代わる新しい技術)がどれほど持て囃されようと、先行者のポジショントークに惑わされず、目の前の実務にまい進するのが正解といえそうです。

ただ、最近は政府もweb3.0研究に乗り出しているので、社会のストリームの一つとして、これからも注視していく方が良いかもしれません。

※ブロックチェーンは「改竄不能、かつだれもが取引データを見えるようにする」技術なので、
NFT利用とかミーハーなことを言わず、まずは「税金の使い道」をブロックチェーン上に全部記録してもらいたい、と思うのは私だけですかね?

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