全国の高1女子とその保護者さんに、夏休み中に知ってもらいたいこと~2020年度版

はじめに


高1までの女の子が対象の定期予防接種があります。
子宮頸がんの原因となるウイルスの感染を予防する予防接種です。

この間、高2の子たちからこのワクチンについてきかれて話をしたところ、
『去年この話きいてたらぜったいうったのに!!』
と口をそろえて言われ、

ちゃんと情報を届けられていないことを、産婦人科医としてとても申し訳ない気持ちになりました。

同じように、無料で接種できる定期予防接種の対象期間逃してしまった方々への助成を求める署名活動も行われており、

これ以上、HPVワクチンの対象期間を逃して後悔する子が増えぬよう、
対象期間のうちに接種するかどうか考えることができるように、

微力ながら、今年もこの時期に改めて、

1人でも多くの方に情報が届くように伝えていきます。

なぜ夏休み中に知ってもらいたいか


HPVワクチンの定期予防接種の対象は小6~高1の女子で、
接種は全3回、3回目をうち終えるまでには半年かかります。

高1の3月までに3回目をうたないと、高2になってからの分は自費になってしまいます。

自費だと、全3回分で約5~6万円。

それが、高1の3月までなら自治体からの補助で無料で接種できます。

つまり、全部無料で接種するには、高1の9月中に1回目をうち始めないと間に合いません。

夏休みの間に、接種するかどうか考えたり、

接種する場合、
自治体によっては接種票を自分で取り寄せないといけないので、その連絡をしたり、
予約をとったり、


接種しようと思ってもすぐにうちに行けるわけではないので、
今のうちに知っておいて頂きたいのです。


せめて今年の高1女子は機会を逃すことのないように、
この情報が1人でも多くの高1女子とその保護者さんに届きますように。

以下、大事なポイントだけピックアップします。

予防接種と検診で子宮頸がんはほぼ予防できます


・子宮頸がんの原因になるHPV(ヒトパピローマウイルス)の感染をワクチンで予防できます。


・子宮頸がんは20-30代に多く、妊娠出産前に子宮を失うことになったり、子どもがまだ小さいのに命を落とすことになりかねません。


・HPVワクチンで完全に子宮頸がんを予防できるわけではないけれど、がん検診によってがんになる前に早期発見できます。接種済の人も、検診は大事。


・世界中で接種が推奨されており、こんなにも接種していないのは日本だけ。(接種率1%未満)


・WHOもHPVワクチンの有効性と安全性を保証しており、日本の現状を危惧しています。


・子宮頸がんだけでなく、ほかのHPV関連がんや、4価・9価ワクチンであれば尖圭コンジローマも予防できます。


HPVワクチンは定期予防接種



・HPVワクチンは定期予防接種なので、対象者は無料で接種できます。


・定期予防接種の対象は、小6~高1の女子。


・高1までは無料で接種できるけど、それ以降は計5~6万円の自己負担。


・全3回接種で半年かかり、全部無料で接種するためには高1の3月までに3回目までうたないといけません。


接種するには



・厚労省が積極的勧奨を中止しているために、予防接種のお知らせが家に届く自治体と届かない自治体とがあります。


・お知らせが届いていない、もしくは、届いたかどうか覚えていない場合は、自分で自治体へ申請しましょう。


・いつでもどこの病院でもワクチンの在庫があるわけではないので、事前に予約をしましょう。


・赤ちゃんの時の予防接種と同様に、予診票に保護者のサインが必要。


HPVワクチンへの不安がある方が多いと思いますが



・厚労省が積極的勧奨を中止したきっかけは、2013年頃に副反応報告があり、大きく報道されたため。


・その後の調査で、副反応と言われている症状とHPVワクチンとに因果関係は示されていません。


・安全性に問題はないとして、定期予防接種からはずされてはいないし、勧奨もされています。


・そうは言われても、なかなか不安は払拭されないと思います。ぜひかかりつけの先生に相談してみてください。(必ずしも産婦人科でなくても大丈夫です。)

新しいHPVワクチンが承認されましたが


2020年7月に、9価のHPVワクチンが新たに承認されました。

これは、今までの2価・4価のHPVワクチンが、子宮頸がんの原因となるHPVのうち6~7割を予防できるのに対して、


9価のHPVワクチンなら9割予防できます。

せっかくならより有効な方をうちたいですが、
2020年8月現在、まだ、定期予防接種としてうてるのは2価・4価ワクチンだけです。

9価が定期予防接種の対象となるのかどうか、
なるとしたらいつ頃なるのか、
まだ全くわかりません。

ですので、あとは費用対効果をどうとらえるかですが、
今年の高1の子は、無料でうてる4価ワクチンをうっておく、というのもよいと思います。

今の中学3年生までの子たちは、
もしかすると、対象期間の間に9価も定期予防接種でうてるようになるかもしれませんので、

今すぐうたずにもう少し様子をみておいてよいかと思います。

まとめ


新型コロナウイルスの一件で、感染から身を守るためにワクチンがいかに大事な存在か、多くの人が改めて認識していると思います。

HPVワクチンも、HPV感染による病気から身を守るための大事なワクチンです。

決して急いで決める必要はないですが、
定期予防接種の期間内に接種したいと思われた方は、

1回目を9月までにうちにいきましょう。

無料接種期間をすぎてから後悔することのないように、

1人でも多くの高校1年生の女の子とその保護者さんにこの情報が届きますように。


《参考文献》

Huh WK, et al: Final efficacy, immunogenicity, and safety analyses of a
nine-valent human papillomavirus vaccine in women aged 16-26 years: a
randomized,double-blind trial. Lancet 390: 2143-2159, 2017.

Human papillomavirus vaccines: WHO position paper, May 2017. WHO Weekly
epidemiological record No 19, 2017, 92, 241–268.

Hanley SJ, et al: HPV vaccination crisis in Japan. Lancet 385: 2571, 2015.

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