遠山さんと中沢さん カノア・小島秀人
中沢新一さんの書評「遠山孝之写真集『褪せた地図』に寄せて」を公開する前に、写真家・遠山孝之さんを紹介させてください。そして、中沢新一さんが書評を書いてくださった経緯もすこしだけ説明させてください。
昨年、『褪せた地図 FADED MAP America on the back roads』(以下『褪せた地図』)の販促方法を著者の遠山さんと電話で相談していたときのことです。出版社の常套手段ではありますが、著名な方に書評を書いていただき、その文章を店頭販売用のPOP(本に巻く帯に印刷する場合もあります)やウェブサイトに使わせてもらうのはどうか、そうやって読者の関心を惹きましょうと持ちかけました。つまり、書評を書いてくださる方の知名度を利用して、その書評から『褪せた地図』までの動線を引いて販売に結び付けたいのです。どなたに書評をお願いしたらよいのか心に思い当たることというか、勝手な願望もあったのでした。
遠山さんは1970年代に『李朝民画』や『李朝工芸』(ともに講談社)を、80年代には『ヨーロッパの窓 全2巻』や『Chairs ─椅子─』(ともに美術出版社)を、90年代には『ノエル ─聖夜を飾る─』(美術出版社)や『DOORS』(講談社)を、2000年代には『Historic Rings』(講談社インターナショナル)など、数々の作品集を世に送り出してきたベテランです。とはいえ、おもに広告の分野で活躍されてきた写真家ですから、著者としての知名度はそれほど高いものではありません。しかも、数十年ぶりに刊行する写真集です。そこで『褪せた地図』を応援してくださる著名な方に書評をお願いする、という方向で同意を得ました。
遠山さんとは今から20年以上前に、自分が20代の頃に出会いました。その仕事ぶりや実績を垣間見るたびに「この人はただ者ではないな」と感じさせるのに、はるか目下な自分と対等に付き合おうとしてくださるさわやかな態度は昔も今も変わりません。当時からいろいろなことを教わっています。木耳社(もくじしゃ)という聞きなれない出版社が刊行した『丸石神 庶民のなかに生きる神のかたち』(以下『丸石神』)というタイトルの本を開いて見せてくれたとき、そこに収録されている写真はすべて遠山さんが撮影したものだとも聞きました。様々な大きさの丸い石を写した写真でした。
そして、『丸石神』を執筆された丸石神調査グループのメンバーのなかに中沢新一さんの名前を見つけたのでした。『チベットのモーツァルト』、『三万年の死の教え』、『森のバロック』、『幸福の無数の断片』、『はじまりのレーニン』などの著作を読んでいた自分にとって中沢さんはスターであり、そんな方と一緒に仕事をしている遠山さんに憧れもしました。自分が出版社に勤務することになる数年前のことです。
この『丸石神』という不思議な本が、今も記憶の片隅に残り続けていたのかもしれません。2017年に中沢さんがディレクターを務められた展覧会「野生展:飼いならされない感覚と思考」に「丸石神」の展示があったからかもしれません。思いのままに電話口で自分は、「中沢新一さんに書評をお願いしてみませんか」と切り出したのでした。
「お忙しい方だから書いてくださるかな。でも、中沢さんが事務所にいらしたときに『褪せた地図』にも収録した写真を何枚かお見せしたことはありますよ」と、遠山さんはすこしだけ興奮した様子で反応してくれました。
そうして自分は中沢さんへ宛てた原稿依頼の手紙を送り、中沢さんがそれを快諾してくださったのでした。
中沢新一さんの書評「遠山孝之写真集『褪せた地図』に寄せて」は、2月12日(金)12:00から公開を開始いたします。
(写真出典:『褪せた地図 FADED MAP America on the back roads』)
丸石神 ── 庶民のなかに生きる神のかたち (1980年)
丸石神調査グループ 編
1980年6月1日刊行