「殺人犯はそこにいる」を読んだ日




1時間半ほど自転車を漕いだ。海を見に行くためだった。
マスクの中小さな声でずっと歌を口ずさんでいた。
「雑踏の片隅で」という曲。高橋優のかなり前のアルバム曲。
一度好きになった同じ曲を何度も執着して聞く癖があるが、これもそのひとつ。本当に好きだ。

自転車を漕ぐ前、一冊の本を読んだ。読み終わった時、この曲が頭の中を流れた。


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「殺人犯はそこにいる」著者はジャーナリストの清水潔さん。小説ではない。全て事実が記されている。恐ろしい事実。普段のわたしなら確実に読まないジャンルだが、数年前父親に勧められて読んだことがあった。清水さんの勇気と行動力、一貫した正義に深く感動したことを覚えていた。

映画「望み」を見たときも感じたが、報道というものは時として一番の加害者になりかねない。今朝、たちの悪いネットニュースを見たとき、ふとこの本を思い出した。すぐに読みたかったので電子書籍で読んだ。

再読だけど、衝撃。日本に生きていることが恐ろしくなる。

足利事件の冤罪を受けた菅谷さんは、誰もがそうであるように、いつもと同じ明日が来ると思って眠っていたところを起こされ、7年もの日常を奪われた。

現実は、大岡越前も右京さんもコナンくんもいないんだ、と思った。
冤罪は起こるし、悪質な犯人は捕まらずいまもどこかに身を潜めている。
正しい裁きが行われない可能性を孕んでいる。真実は全然ひとつじゃない。ひとつの真実が、塗り替えられる可能性はあふれている恐ろしさが記されている。

清水さんはジャーナリストだ。弁護士でも検事でもない。事実が正しい形で報道されるよう、大きな声に左右されず弱いものの声に耳を傾けている。ヒーローがこの世にいるとしたらこの人だと感じる。

少年たちになにを誇ろう?
少女にどんな歌を歌おう?
たとえばこの世から旅立つ時
どんな景色を見ていたいんだろう
なにもかも捨てたもんじゃないさ
そんな風に悟れたらいいのにな
今も未来も街行く人も
嫌なとこもありゃ良いとこもあるさと

愛し合いながら憎しみ合い
助け合える手で陥れ合って
信じあえる瞳で疑い
付き合ったり遠ざけあってみたり
それ以上でもそれ以下でもない
僕らの道は明日へと続く
なけなしの愛情振り絞り
それぞれのゴールを目指して

雑踏の片隅で/高橋優

とてもじゃないが、未来に誇ることなんてできない現実が記されている。もしも自分の家族が、友人が、と考えると胸が張り裂けそうになるが、本当にあったことなのだ。この国で、今も終わっていない事件が続いてるんだ。
それでも、清水さんは戦っている。愛情を振り絞って、ゴールを目指して。

正しい裁きを望むことって、こんなにも難しいことなのか。
いまでも真犯人がどこかに潜んでいる恐怖、奪われるかもしれない命より重たいものがこの世にあるのか。

悲しくなるかもしれないけど、これは本当に読んだ方がいいと思う本です。是非。


追記。

「イチケイのカラス」を毎週見ています。
検察の「誠に遺憾ながら」の先に続く真実。
それを求めた清水さんの、1時間では語りきれないような背景がこの本には描かれています。それも、竹野内豊も小日向文世もいない世界で。
私達はドラマよりずっとずっと怖い世界を生きている。






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