書道「業界」、サバティカル休暇。

そろそろ「書道界」から距離を置くタイミングについて真剣に考えたい。
そんな、とりとめのない業界あるある話です。
書道界の内部事情に興味のある方がいらっしゃれば、ぜひ最後までお付き合いいただけますと幸いです。

2013年、国内最高峰の公募美術展である「日展」の書部門において、不正審査のニュースが取り沙汰されました。
記事の内容は、力をもった社中(組織)や師に師事していなければ展覧会で爪弾きにされる、という美術界のデキレース体質に対する批判です。

私は30年近く社中に身を置き、現在は役員という立場で活動しています。
その立場で言うなら、書道界は「そういうもの」です。
記事にある通り、上納金ありきのピラミッド構造も含め書道界は「そういうもの」を受け入れて続ける業界だと思っています。

そもそも日本で開催される大規模な書道展は、日展のみならずそのほとんどが新聞社主催です。
すぐ下位に位置づけられる公募展しかり、登竜門的な公募展しかり。
国内の書道教室の9割がこの新聞社の傘下にあたる会派とも言われている寡占の業界です。
(具体的には 読売>毎日>産経>その他 かと思います。私は読売系の会派に所属しています。)

古典書道の世界において、こういった寡占企業の主催する展覧会は、実績を積むことで書道家として技術証明ができる重要なものです。

この実績を作る道で、複数の主催団体から階級が与えられることになります。
同時に、その階級に応じて社中での階級も昇格していくという仕組みです。

ここで問題になるのが、「上納金」と呼ばれるお金の存在になります。
上記の展覧会活動で階級が上がっていくと、支払う金額が増額するシステムになっています。
代表的には以下のようなものがあります。

・入選した際の謝礼金(社中、師の両方へ)
・師への歳暮や中元(現金)
・各展覧会主催団体の年会費
・社中の年会費

おそらくどの社中も似たようなもので、数千円から始まり、数万、数十万円と、気づいた頃には桁が変わる増額となります。
ここに月々の月謝、出品料、表装(紙のシワを取り額入れする加工)料、額のレンタル料、作品輸送の保険料などが発生します。
また社中によっては雅号の命名料、都度の手本代など様々な費用が発生する場合もあるようです。
もちろん作品作りに使う筆や紙、墨などの消耗品はそれなりに良質なものが必要になります。

順調に階級を登り社中で育てられている若手の私の場合、ぶっちゃけると既にこの総額が年間100万円を超えています。
一般の感覚で言えばドン引きの一言かと思います。

今回、サバティカル休暇というか自主的にキャリアを考えたいとの思いで1年間の休暇をとることにしました。
つまり「金銭的にもう無理だから引退を検討するため時間がほしい」という話です。

私は、書道界の仕組みを変えたいとかなんとか能動的な考えは持っていません。
このシステムが戦後の書壇を復興させる手段であったこと、それからの書道界を支えてきたことは事実だと思いますし、現に日展などの展覧会においては他ジャンルの何倍、何十倍の出品点数があり、そういった書道人口の維持に貢献したシステムであるという点も含め、優れた方法だったのかもしれません。
とにかく、先人の作り上げた書道業界の中で楽しさを享受している身として、そこに牙を向けようとは思えないのです。

ただ時代と価値観が大きく変わっていく中
「このやり方だけが唯一の正解」だとしたら、いずれは家元制度に変わるか、団体が衰退するかの2択なのではとも感じています。
寺小屋のような教室ビジネスはとうに全盛期を過ぎ、IT時代において求められるものが変わる中、将来の金銭的な見返りが少ない高額な芸事を続けられる若者は非常に少ないと思います。
(このあたりは書道の美術的価値や売買における中国書道との関係など、色んな背景があるので割愛します。)

これまでの私にとって、業界の体質に疑問をもち公表することは育ててくれた師や社中の恩義に対する裏切りのような感覚がありました。
今でも少し胸がザワつきます。

と、先日そのような複雑な心境を親しい友人にグチグチグチグチ話していたのですが、返ってきた言葉は

「業界事情はよくわからないし師弟関係って感覚もわからないけれど、ハタから聞いてたら“ブラック企業で辞めたいのに辞めない社員”と“悪どい営業を続けるうちに根っこの倫理が世間ズレしてるブラック企業”みたいな感じ(笑)」

というものでした。
なかなか否定しにくい部分があり、今ここに気持ちをしたためています。

色々偉そうなことを書きましたが
仮に、自分が書道家の家系に生まれた後継者として不足ないバックアップを受けながら書道を学んでいたとしたら、私はこの自問を心の中でひねり握りつぶし、書壇の高みを目指し続けていたのではないかなと思います。

同時に、業界の方から見れば結局はお金が続かないという「よくあること」レベルの話を、書道界に対する講釈という形で訴える浅はかでありがちな若手という話でしかないようにも思います。

これから1年間、色々な書展、美術展に足を運びながらできるだけ単純な気持ちで書道を楽しみたいと思っています。
自分が何を書きたいか、何を学びたいか、その中で少しでも古典の素晴らしさを後世に残す一助が見つかればいいなと思います。

おわり。

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