見出し画像

神奈川県SDGs社会的インパクト・マネジメント実践研修 【第3回】開催レポート

はじめに:「SDGs社会的インパクト・マネジメント実践研修」第3回が開催されました!

12月4日(金)、SDGs社会的インパクト・マネジメント実践研修第3回が開催されました。今回の研修では、各参加組織が宿題として作成を進めているロジックモデルと、データ収集計画を更新すると同時に、ロジックモデルを金融と対話するための一つのコミュニケーションツールとして意識することが、ゴールとして設定されました。


今回のレポートでは、以下の点についてご説明します:
1. あらためて、社会的インパクト・マネジメントの要点とは?
2. 社会的インパクト・マネジメント実施のためのツール:ロジックモデル
3. SDGs達成を後押しする金融機関の具体的な取り組み -投資編-
4. SDGs達成を後押しする金融機関の具体的な取り組み -融資編-

今回の研修は、第1回、第2回の振り返りからスタートしました。まず、参加組織の皆さんから、現時点までの作業(ロジックモデル作成や指標設定)の中で感じる「もやもや」を共有してもらいました。当初考えていたロジックモデルとは異なる内容に変化している気がするがそれでいいのだろうか、自社事業のアウトカムとSDGsとを紐づけた後は何につながるのだろうか、設定している指標はアウトカムを測るのに適切だろうか、とまさに多くの組織がもやもやの最中にいる様子がうかがえました。

SDGsに向かい、それまで見えていなかった自らの活動が生み出すインパクトや、それらをつなぐロジックを可視化していく正解のない作業ですから、途中「もやもや」の煙に巻かれてしまうのは当然かもしれません。そこで、あらためて社会的インパクト・マネジメントの要点を振り返りました。

1. あらためて、社会的インパクト・マネジメントの要点とは?

社会的インパクト・マネジメントとは、SDGs達成に貢献するための手法の一つです。事業運営により得られた事業の社会的な効果や価値に関する情報にもとづいた事業改善や意思決定を行い、社会的インパクトの向上を志向するマネジメント、と定義づけられています。ここでいう社会的インパクトとは、短期、長期の変化を含め、当該事業や活動の結果として生じた社会的、環境的なアウトカムのことです。

このアウトカムは、アウトプットと分けて考えることが大事です。社会的インパクト・マネジメントにおいて評価する対象はあくまでもアウトカムです。

アウトプット: 事業を行ったことで直接発生する事象や事業量など、事業者がコントロールできる結果(例-事業内容のチラシを作成し、配布した数)

アウトカム: アウトプットを用いて生み出されるもので、必ずしも事業者がコントロールできない成果(例-配布されたチラシをみて上昇した売上)

社会的インパクト・マネジメントの実施は、事業、組織、社会の3つの領域において貢献したり、活用されたりすることが考えられます。

画像1

このうち、特に社会に対する貢献については、社会の改善が多様なアクターの連携や協働によってはじめて実現されうると考えると、自らの組織のロジックモデルを外部にも提示し、他者にも再現してもらうことも目指していくと、社会へのより大きなインパクトを生み出すことにもつながるでしょう。

社会的インパクト・マネジメントの実践にあたり、通常の事業者と社会的インパクト・マネジメント実践者とでは、視点が異なります。前者は経済的価値に着目しますが、後者はそれに加えて社会的価値をしっかり考えていくことが重要になります。自らの組織の事業において、意図して社会的価値をうみだしていくためのマネジメントを行い、また、それを本業に統合していくことが求められます。

社会的インパクト・マネジメントにおいては、計画・導入(Plan)、測定(Do)、検証(Check)、改善(Act)のPDCAサイクルを回すことで、社会的インパクトの増大を目指しますが、そのうち、測定および検証のステップにおいて特に重要となる評価について、その質を担保するために以下の「5+2の原則」に留意すると良いでしょう。

画像2

2. 社会的インパクト・マネジメント実施のためのツール:ロジックモデル

社会的インパクト・マネジメントの実施において有効なツールとして、ロジックモデルがあります。ロジックモデルは、自らの組織の事業と、そこから生まれる短中長期のインパクトはどのようなもので、またそれらがどのようにつながり、さらにどのようにSDGsに紐づくのかを整理し可視化できる点で有用です。

一方で、自らの組織の事業価値とインパクトを明らかにしたそのロジックモデルを、まずは社内で価値共有のために使いたい、または投資家とのコミュニケーションに使いたい、など、その活用目的は各参加組織によって異なると思います。自らの組織の事業価値を、まずは自分たちが納得できる形で表現したうえで、その後の活用目的に応じて使いこなしてほしいツールです。

ロジックモデルで設定したアウトカムは捉えどころがないことが多いものです。そのようなアウトカムを測る指標を設定するということは、アウトカムに含まれる価値を選定・特定するということです。例えば、子供のコミュニケーション能力が高まる、というアウトカムを設定した場合、それを測る物差しとして、チームワークや語学力など複数出てきます。それらを洗い出したうえで、測るべき・測りたい価値はどれなのか選定・特定してみましょう。指標は複数でもよいです。複数設定することで、アウトカムを立体的に捉えることもできます。

グループメンタリング

第1回、第2回の振り返りも踏まえ、各自現在作成を進めているロジックモデルや指標の設定などについて、グループ別にメンタリングを行いました。
参加組織からは、自らの組織のロジックモデルを外部にも提示し、他者にも再現してもらうこと、つまり再現性を目指すことで社会領域への貢献を実現しうるという点が参考になった、というコメントがいくつか聞かれました。

具体的には、
・事業が社会にどう貢献しうるのか、理想の形をイメージするヒントになった。

・営利企業としては、他社に同じものをやられるとダメージではあるが、社会全体で再現性を持たせることで、社会的インパクトを広げられると理解できる。

・ロジックモデルの再現性という観点でみていくと、ロジックモデルの作成においてチェックするべきポイントも見えてきた。

一方で、具体的な指標の設定部分で悩んでいる参加組織も複数見られましたが、指標の設定はアウトカムの価値の選定・特定であることをあらためて意識すると、よりクリアに整理できるかと思います。

3. SDGs達成を後押しする金融機関の具体的な取り組み -投資編-

今回の研修では、事業体のSDGs達成への活動を支え、共にSDGs達成を目指すパートナーとなりうる金融機関が具体的にどのような取り組みを行っているかを、実際に携わっている金融機関の方々から紹介してもらいました。まずは、新生企業投資株式会社インパクト投資チームのシニアディレクター黄氏から、新生銀行グループのインパクト投資の取り組みを紹介してもらいました。黄氏は、2005年新生銀行に入行後、一貫してプライベートエクイティ投資(未上場株式投資)に携わってこられ、現在は2本のインパクト投資ファンド(「子育て支援ファンド」と「はたらくFUND」を運営されています。

黄氏: 「新生企業投資株式会社は、新生銀行の100%投資子会社として2012年11月に設立されました。新生銀行の旧プライベートエクイティ部を母体としているため、チームとしての実際の投資経験はすでに15年以上にわたっています。そのうちインパクト投資については、2017年1月に私ども女性社員の発案でチームを立ち上げ、現在は、2本のインパクト投資ファンドを通じて、子育て、介護、新しい働き方関連事業を営むベンチャー企業に対し、投資・成長支援を行っています。

これらの投資対象を選んだ理由について、私ども自身の子育て経験を踏まえ、働き続けられる環境づくりと次世帯人材育成は、日本が直面する社会課題であり、ビジネスとしての市場成長性もあるのではないかと思ったことがきっかけです。自ら痛感する社会課題に対して投資を通じて支援していくことを目指し、2017年には邦銀系初のインパクト投資ファンドとして、新生銀行グループの自己資金で組成しました。1号ファンドでは計6社に投資し、2019年3月に投資組入が終了、2019年6月には2号ファンドを組成しました。

2号ファンドは社会変革推進財団(SIIF)との共同運営で、みずほ銀行とも協業しています。新生銀行、みずほ銀行とSIIFの他、三井住友信託銀行、横浜銀行、きらぼし銀行、名古屋銀行、福岡銀行、大学法人、事業会社系などの計12社から資金調達を行い、36.5億円のファンドを運営しています。投資規模および投資期間は、それぞれ1件当たり1-5億円、3-5年間で、ターゲットリターンは 15-25%を目指しています。

従来のベンチャー投資との違いは、大前提として、経済性と社会性のトレードオフではなく、両者に正の相関関係がある事業やビジネスモデルを投資対象としている点です。経済性に対する評価は通常のベンチャー投資と同様ですが、社会性に対する評価は、投資対象企業の経営チームが社会的課題の解決にコミットしているか、事業が社会的インパクトを生み出しているか、企業が投資を受けた後も含めて社会的インパクトを計測・評価し、それを経営に活用するようマネジメントしているか、といった観点を見ています。

インパクト投資ファンドのミッションとして、社会的インパクトの創出を目指しているので、まずはその目的に合った投資対象企業を選定し、デューデリジェンスを行います。その段階で対象企業と共にロジックモデルを作成します。投資期間中にはそのロジックモデルを確定し、評価を実施、結果を経営上の意思決定に活用できるようマネジメントするのと同時に、社会的インパクトレポートも作成し、投資家に対してインパクト評価や活用の結果を報告します。

エグジットの際も、従来のIPOの枠組みの中ではありますが、ロジックモデルや社会的インパクト評価結果を開示します。ESG投資家を含む、より社会的インパクトに関心のある投資家に接続していくための「インパクトIPO」の事例づくりを、今まさに取り組んでいるところです。

インパクト評価・マネジメントは、ファンドとしても個別の投資先においても行っています。後者については、複数の社会的インパクト評価のツールを活用し、事業性評価と組織評価の2面で行っています。事業性評価はImpact Management ProjectのFive Dimensionsフレームワークを用いて、What、Who、How much、Contribution、Riskの側面で定量・定性的にインパクトを把握し、ロジックモデルに落とし込みながら測定を行っています。

投資先企業の中には、ロジックモデルを作成することで事業の非効率性に気づき改善につながったり、IPO時のエクイティ・ストーリーにも活用して付加価値の実現につながっていこうといった事例もあります。ロジックモデルの活用の場面も、人材採用や営業活動の場面などさまざまです。」

――(質問)社会的スタートアップを対象にするとエグジットは難しいのではないか?投資期間終了後の投資持ち分については、どうなるのか? 

黄氏:「エグジットの方法として、主にIPOや事業譲渡などが考えられます。投資先にはIPOを目指す会社が多いものの、必ずしもIPOではなく事業会社への譲渡等もあると考えています。特に、私どものファンドが投資対象としている分野(子育て、介護、新しい働き方)は大企業の関心領域とも親和性が高いと考えており、投資先のミッションを引き継ぎながらそのような企業へ譲渡する可能性も考えられます。

また、投資先の事業がうまくいかなくなることも、もちろんあると思います。一つ言えるのは、インパクト評価を行うことで投資先との対話は月一回以上にも上り、対話を通じて、投資先とともに会社の課題をいち早く把握し、事業改善の機会を持てるようになるということです。投資先企業自体が課題に気づいていないこともあるので、他の投資先への成長支援で培った経験や失敗談を活かしながら、事業改善にともに取り組んでいます。

さらに、ロジックモデルの作成とマネジメントへの活用によって、真に企業価値につながる取り組みができているのかをチェックすることができています。」

4. SDGs達成を後押しする金融機関の具体的な取り組み -融資編-

引き続き、融資の立場から滋賀銀行の山本様から、しがきんサステナビリティ・リンク・ローン(しがぎんSLL)について、ご紹介いただきました。

山本氏: 「まずお伝えしたいことは、滋賀銀行は、長年にわたり金融を通じて環境問題を解決することに取り組んできました。その延長線上にあるものとして、今SDGsにも注力しています。その中で、SDGsをどうやって経営や事業に落とし込めばいいのかわからない、という相談の声が多くのお客様からあがってきました。そのような、すでに事業を行っていてSDGsの達成に貢献する意思のあるお客様に対して、2019年6月から、事業とSDGsをどう紐づけられるのかといった内容のSDGsコンサルティングを実施してきております。

例えば、業績貢献と社会的課題解決を実現する「サステナビリティ・パフォーマンス目標」(SPTs)の設定は、コンサルティングの成果物の一つです。
しがぎんSLLは、コンサルティングの次のステップとして、本気でSDGsやSPTsの達成に取り組みたいお客様に対して開発されたものです。お客様の企業価値向上が第一の目的ですが、それと同時に社会的インパクトを実現することも目指します。仕組みとして、お客様が設定する自社の経済的価値向上を実現するとともに、社会的価値、つまり、環境や社会にもプラスのインパクトを与える、またはマイナスのインパクトを減らす目標を掲げていただきます

この目標は野心的でなければなりませんが、目標が達成できると金利が下がるといった形で融資条件が連動します。目標が野心的かどうかは、R&Iやしがぎん経済文化センターといった第三者評価機関からセカンドオピニオンを取得して判断しています。

しがぎんSLLでは今までに2件の融資実績があります。そのうち1件はシンジケートローンとし、地方銀行16行で融資を実行しました。地方銀行としてもソーシャルファイナンスなどへの意識が高まっていることがうかがえます。」

――(質問)どうやって融資先を探しているのですか?

山本氏: 「SDGsコンサルティングは70社超に対して行ってきましたが、その中で実際にSDGs達成に貢献したいお客様十数社から、しがぎんSLLに関心を示していただきました。この商品の最小融資金額は5000万円からとしており、中小企業にも使いやすい設計にしています。利用によるメリットとして、SDGs企業としてのPRや、SDGs経営に向けて社内を巻き込んでいく効果が期待できます。」

――(質問)融資対象顧客とはどのようにSPTsを策定し、その過程でどのような会話があり、意思決定および合意されていくのですか?

山本氏: 「お客様が事業を通じて社会にどういったインパクトを与えたいのか、社会においてどんな企業でありたいのか、という点を突き詰めたうえで、そこから逆算してSPTsを設定しています。SPTsは野心的でなければならないという条件があり、それは第三者評価機関から認めてもらう必要があり、コミュニケーションを取りながら、SPTsの検討を進め、設定に至るというステップを経ています。」

おわりに:次回にむけて

今回の研修では、SDGs達成を後押しする金融機関の取り組み事例について学びました。次回1月8日(金)の実践研修第4回では、より多くの金融関係者に参加いただき、社会的インパクトをめぐる事業者と金融機関との対話について議論する予定です。この研修の参加組織の中から数社、事業紹介をしてもらい、より具体的に議論を深めることを計画しています。

実践研修第4回のレポートもお楽しみに!


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?