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インパクト投資のもやもやを考える(5)ESG投資との違い〈前半〉

「インパクト投資とESG投資の違いは何ですか?」というのは、セミナーなどでよく出る質問の一つです。今回は、これについて考えてみたいと思います。

最近、とある案件に絡んで、インパクト投資またはESG投資に、主に実務的に関わる方々に集中的に話を聞く機会がありました。

「インパクト投資とESG投資との違い」について、教科書的な説明はいろいろとありますが、今回は、このヒアリングからリアルに感じた「違い」について、書き記したいと思います。

そのため、教科書的な説明と食い違っていたり、かなり整理が粗い、単純化しすぎているところもあるかもしれませんが、これはこれで(現段階では)自分が納得できる一つの真実だとも感じています。

まずは、定義と、2つの違いについての一般的な説明を踏まえておきたいと思います。

<定義>

インパクト投資とは
インパクト投資とは、財務的リターンと並行して、ポジティブで測定可能な社会的及び環境的インパクトを同時に生み出すことを意図する投資行動を指します。(GSG国内諮問委員会)
ESG投資とは
ESG投資は、従来の財務情報だけでなく、環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)要素も考慮した投資のことを指します。(METI/経済産業省)

<2つの関係>

こちらは、ESG投資とインパクト投資は「インパクトを求めつつ、市場競争力のある財務的リターンを求める部分で重なる」というもの。

スクリーンショット 2021-07-09 172630

GSG国内諮問委員会HP

また、こちらは「インパクト投資は、ESG投資の一手法である」というもの。ESG投資からインパクト投資を見たものなので、上とは矛盾しません。

スクリーンショット 2021-07-09 173547

投資信託協会


その上で今回は、ヒアリングを通じて感じた、少し実務的・実際的な違いを5つ、挙げたいと思います。


違い① ESG投資はパフォーマンスのため、インパクト投資はインパクトのため

これはかなり基本的な(とはいえ反論もあるかもしれない)ことですが、ESG投資は「運用パフォーマンスを上げるため」、インパクト投資は「社会や環境にプラスのインパクトを出すため」、という違いを今回改めて感じました。

そもそも、ESG投資家と、インパクト投資家は、同一人物ではありません。ESG投資家はインパクト投資はしていないし、インパクト投資家はESG投資をしていません(まれに重なることもあるかもしれませんが)。その両者の話をそれぞれ聞いて、一つ根本的に違いがあると感じたのは、この部分でした。

極論を言ってしまえば、ESG投資(の実態あるいは現場)は、世界の社会・環境問題を解決するために投資をするわけではなく、ESGに配慮をするとリターン/リスクの効率が上がるから投資をする。パフォーマンスが目的で、インパクトは手段。一方、インパクト投資は、社会・環境問題を解決するために投資をするが、運用パフォーマンスを上げなければ市場で生き残れないのでパフォーマンスを追及する。あるいは、社会・環境問題に対して大きなインパクトを出す企業や機会に投資をすれば、運用パフォーマンスが付いてくる。すなわち、インパクトが目的で、パフォーマンスは手段もしくは結果。かなり大雑把な対比ではありますが。

なお、ESG投資の世界に、社会・環境問題を積極的に解決する意図が全くない、という意味ではなく、そういうインパクトへの意思、未来への責任を持って投資をされている方は確実にいるし、ESG投資を普及させることで社会・環境への良いインパクトを拡大し、より良い未来をつくろうとされている方は大勢います。

ただ、もし(まだ考えにくいですが)ESG投資によるパフォーマンスがベンチマーク(TOPIXなどの市場平均)を下回り続けたとしたら、それでもESG投資を続ける、と自信を持って言える投資家はどのくらいいるのだろうか、と感じずにはいられませんでした。手段が有効に機能しなくなれば、手段を変えるのは当然のこととも言えます。


違い② ESG投資は外部から、インパクト投資は内部から

これは、ヒアリングを通じて浮き彫りになったというより、ヒアリングを通じて浮き彫りになった違いがどこから来たのだろうか、と考えて思い当たったものです。2つの出自の違いです。

ESG投資は、2006年、当時の国連事務総長であったコフィー・アナン氏が金融業界に対して提唱した「責任投資原則」が起点となっています。起草には世界中から20以上の機関投資家が関わり、さらに公表後、署名する機関が次々と増えたことで、ESG投資はさらに普及してきました。(参照:United Nations

一方、インパクト投資は、2007年にロックフェラー財団が、投資家や起業家、慈善事業家を招いて開いた会合で、「社会的・環境的便益をもっと効率的に生むような資金の使い方はないだろうか」という議論の最中、参加者の一人から出てきた言葉だと言われています。(参照:WHARTON Magazine

つまり、投資家(ここでは財団等も含む)自らの問題意識から内発的に生まれてきたもの(後者)か、外部から提示された問題意識に投資家が応えるかたちで形成されてきたものか(前者)、という違い。

どちらも、現在地は、財務リターンと社会的・環境的インパクトの交差点という一見似たような場所に立っているように見えるけれど、2つは違うところから出発していて、だからこその性質の違いがあるように思います。

インパクト投資は、そもそも「社会的・環境的インパクトを生む」というのが自らの存在理由で、「そのためには資金をどう使えばいいのか」という問いから始まっている。だから、「インパクトばかり考えたら財務パフォーマンスが下がってしまうのではないか」という話にはなりにくい。むしろ、インパクト優先という前提の下で、どうパフォーマンスを確保あるいは最大化できるのかを求めているものと言えます。

一方、ESG投資では、国連といういわば外部から「ESGへの配慮が足りない」という課題が持ち込まれた。だから、「ESGやインパクトを考慮したら、財務パフォーマンスが棄損するのではないか」という疑念が生まれたのだと考えられます。ESG投資を巡っては、受託者責任(受託者は、委託者および受益者の利益を第一に考える義務を負うというもの。主には忠実義務および善管注意義務)に反しないかという議論が続いてきたのも、その表れと言えるのではないかと思います。

かなり単純化した対比ではありますが。そして、この出自とそれに伴う性質の違いは、①の「インパクトが先(目的)か」「パフォーマンスが先(目的)か」にもつながってくるものと思います。

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後半の予定
③ESG投資はマイナスの回避、インパクト投資はプラスの追求
④ESG投資は大企業、インパクト投資はベンチャー・中小企業
⑤ESG投資は比重、インパクト投資はゼロイチ

※この記事は、ESG投資とインパクト投資を対比させ、どちらが良いか、優れているか、を議論することを意図したものではなく、両社の「違い」に焦点を当てることを意図したものです。

文・ケイスリー 今尾江美子


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