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3月25日、神奈川県SDGs公開セミナーをオンライン開催しました

※本セミナーのプログラム概要や参考資料はこちら

 弊社(ケイスリー株式会社)は昨年度と今年度の2年に渡り、神奈川県と共に「神奈川県SDGsモデル事業」を実施してきました。神奈川県SDGsモデル事業では、事業の社会的な価値(社会的インパクト)を質的・量的に捉え、その情報に基づいて価値向上に向けた意思決定をする経営「SDGs社会的インパクト・マネジメント」の実証事業を行ってきました。(社会的インパクト・マネジメントについて詳しくはこちらをご覧下さい。)また、5ヵ月間にわたる「SDGsインパクト・マネジメント」の実践者を育成する研修や、現状調査、金融機関における活用の可能性の検討を行ってきました。

 本セミナーでは、そこから生まれた事例や学び、今後の実装に向けた展望や課題について、事業者や資金提供者との議論を通じて共有しました。

SDGs社会的インパクト・マネジメント ガイド

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 今年度のアウトプットの一つに、社会的インパクト・マネジメントを実践するためのガイドがあります。昨年度のガイドの更新ですが、今年度の特徴としては「なぜ社会的インパクト・マネジメントが大切なのか」という導入編を加えたこと。事業者が社内で社会的インパクト・マネジメントを進めていくうえで、社内の理解を得ることが難しいという声を受けて作成しました。また導入編・実践編の概念的な話だけでなく、具体的なイメージを持っていただくために、社会的インパクト・マネジメント実践事例を掲載した事例編も作成しました。ガイド3点セット(導入編・実践編・事例編)暫定版は弊社ウェブサイトのこちらのページにまとめていますので、ぜひご参照ください。(4月以降は、「確定版」として神奈川県ウェブサイトに掲載されます。)

第1部パネルディスカッション 〜社会的価値創造と投資家との対話〜

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 今年度、社会的インパクト・マネジメント(以下SIM)の実証事業を行ったインターネットインフィニティー社のレコードブック事業(3時間リハビリ型デイサービス事業)の事例を掘り下げていきます。レコードブック事業は高齢者の健康寿命延伸を最終目標としてロジックモデルを作成し、利用者のサービス満足度や要介護度の維持改善を途中の成果としてアンケート等で測定しました。

インターネットインフィニティー社は、SIMを実施したことで大きく2つの価値を感じた、という同社の声が紹介されました。「1点目はSIMの実施により会社のビジョン達成までのマイルストーンが明確になったこと。2点目はサービスの利用者だけでなく、従業員やケアマネージャーの声もアンケートしたことで事業にとって何が重要か客観視できたことです。」

<パネルディスカッション>

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東洋大学 米原氏:社会的事業評価といえばPDCAのC、つまり指標の測定こそが評価であるというのが定説でした。ただ今回の事業で面白いのはPDCAのP、つまりPlanにおいてロジックモデルを作成する段階から評価が始まっているということです。重要なポイントは2点ありまして、1点目はロジックモデルを作成することで自分たちの事業を見直すことができたこと。つまり利用者や従業員などステークホルダー全員がなんとなく感じている価値をロジックモデル作成を通して言語化できた。売上や利益など分かりやすい目の前の指標をつい追いかけがちですが、ロジックモデルに基づいた指標を追うことで関係者の価値を最大化できます。2点目はSDGsというグローバルでマクロな最終目標から、バックキャスト思考で自分たちがミクロで出来ることを繋げて考えられたという点です。

新生企業投資 黄氏:SIMを実施することで投資家との対話は促進されると思います。投資家が事業者の事業を理解するうえでSIMが役立つからです。事業として何をやっているのか(What)の部分だけでなく、なぜその事業をやっているのか(Why)やそれが社会にどう影響を与えているのか(Impact)を投資家に伝えることができます。

<視聴者とのQ&A>

「事業の事前事後比較だけではエビデンスとして弱いのでは?」:確かに評価としては対象群と非対象群をとってRCT(ランダム化比較試験)を行えると理想的です。しかしRCTは実施が難しく、専門家のアドバイスやそれなりのコストが必要です。よってまず出来るところから指標を測定してデータを貯め、SIMを導入して事業改善に繋げることが肝要かと思います。

「SIMを実施するうえで大切なことは?」:人材の育成社内の理解促進でしょうか。SIMは経年でデータを取って分析するという息の長い行為です。データを取得し分析する人材が必要ですし、そのためのリソースを割くことに対する社内の理解も必要になります。(もちろん通常の業務を圧迫せずSIMを行う工夫が出来ると理想的です。)またデータを分析して悪い結果が出てきたときに、それを受け止めて事業改善に繋げる姿勢も大切です。

<今後SDGsを達成するために>

米原氏:SIMはダメ出しのツールではなく、思考停止しないためのツールだと思っています。データの取得方法やデータの分析結果に一喜一憂するのではなく、実施した結果から何を改善出来るか、他に何が出来るか考えるためのツールとして役立てて欲しいです。

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黄氏:企業には多くの非財務情報が転がっていますが、バラバラに点として存在します。SIMによってその点を線で繋ぎ、ストーリーとして投資家や関係者に伝えていく努力が大切だと思います。

第2部パネルディスカッション〜SIMの実装のために〜

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<実践研修に参加しての感想>

 5ヶ月間に渡って実施された「SDGs社会的インパクト・マネジメント実践研修」に参加された皆様に、研修に参加してみての感想や、SIMを社内に導入してみた結果などをお聞きしました。

TBM 羽鳥氏:SIMを実施することで事業メンバーが生き生きしてきたのはとても良かったです。ロジックモデル作成を通して自分たちのやっている事業が見直され、活発な議論ができました。

向洋電機 横澤氏:SIMをやり始めた時は社内から斜めに見られていました。また新しいことをやり始めた、という。しかしSIMを続けるうちに社員の意識が変わっていき、今後も続けたいというような声も上がるようになりました。ロジックモデルを作ることで社員が普段感じていることを言語化出来るようになったことが意識変革の要因かもしれません。社員が議論のために独自で勉強するようになったり、人材育成としてのとても良い機会になりました。

かながわ信用金庫 木曽氏:日々銀行業務に携わる中で、SDGsを気にする企業も増えてきていると肌で感じています。SIMの実施により企業のSDGsへの貢献度を可視化出来ると思います。

<SIMを実施してみて>

TBM 羽鳥氏:SIMの実施には社内の理解が必要だという話がありましたが、ベンチャー企業ながら計40時間の研修に参加させてもらえた時点で経営者は前向きだったと言えます。ただ、SIMを実施した結果を投資家に伝える努力はまだまだこれからだと感じています。

向洋電機 横澤氏:大企業に対して自分の思いやビジョンを伝えるというのは難しいことでした。しかしロジックモデルを作って見せることで、なぜこの事業がやりたくて、その先どんなムーブメントを起こせるのかを系統立てて説明出来るようになりました。

<みずほ銀行がIMPに参加した理由>

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みずほ銀行 末吉氏:私はみずほ銀行のSDGsビジネスデスクで働いています。近年ESG投資・インパクト投資の高まりもあり、ビジネス面でのSDGsの必要性は日々感じています。しかしESG投資やインパクト投資の投資先の取組みのインパクト評価が途上であるという課題が見つかり、まずはインパクト評価について勉強するためにIMP(Impact Management Project)に参画しました。

<インパクト投資をする基準>

みずほ銀行 末吉氏:企業と銀行は普段からのお付き合いがあるので、それまでの文脈を通して社会的事業に関する相談も受けたいと思います。

かながわ信用金庫 木曽氏:SDGsウォッシュではなく、SDGsの各ゴールに達成意欲が高い事業者に融資したいと思います。ただ事業者がSDGsへの取組みに関して何を明示すれば投融資出来るのかは今後の課題です。

神奈川県 来年度以降の取組み

神奈川県政策局SDGs推進課 船山竜宏課長より

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 神奈川県の「自治体SDGsモデル事業」は「SDGs×評価」を軸としたエコシステムの形成です。事業者、資金提供者、行政、市民といった多様なステークホルダーの対話・活動によってSDGs達成に向けた持続的な価値の創出を目指します。

 今年度は社会的インパクト・マネジメント ガイドを作成し、研修を通じてSIMを実践できる人材の育成を実施しました。その上で来年度からはSDGsインパクト投融資の実績をめざしていきます。そのために神奈川県版のSDGs金融フレームワークを構築いたします。県と協働してSDGsを推進する事業者を「かながわSDGsパートナー」として登録すると共に、事業者と資金提供者(地方銀行、信用金庫、ベンチャーキャピタル)の橋渡し役を神奈川県が推進していきたいと考えています。

まとめ

 社会的インパクト・マネジメント(SIM)の効用はストーリーで繋げることかもしれません。断片的な非財務情報、網羅的なCSRではなかなか事業の意義が伝わりません。かといって分かりやすいキャッチコピーや企業のビジョン・ミッションだけでは情報の真実味がない。なぜその事業をやっていて、その先どうなるのかという展望をロジックモデルで説明するからこそ、事業の意義が一連の流れのあるストーリーとして相手(投資家や消費者)に伝わります。そしてロジックモデルに沿った指標を測定しているからこそ、情報の信頼性が担保されます。

 SDGsというグローバルでマクロな目標と、一見関係なさそうな自分の日々の業務も、ロジックモデルによって一連のストーリーで繋げることができます。「大きな物語」が喪失したポスト・モダンの時代ですが、多様なステークホルダーが自分の思いを言語化し、全員でSIMに携わるからこそ、SDGsゴール達成という大きな物語から誰1人取り残されずに進んでいけるのではないでしょうか。
今回のオンラインセミナーを視聴してくださいました皆様、ありがとうございました。

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