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公共文化施設の社会的価値を見える化する取組み ~丸亀市に「みんなの劇場」をつくるプロジェクト

「ハコモノ行政」という言葉は、公共施設の建物(ハード)はあるけれど、中身(ソフト)がないことを揶揄するときに使われます。本来は何らかの目的があって建てられるはずの施設が、いつしか建てることが目的化し、やがて空洞化する。

いま丸亀市では、そんな「ハコモノ行政」とは真逆の取組みがされています。ハードの前にソフトをつくる。ソフトのためのハードをつくる。そして、ハードともにソフトがずっと生き続ける。そんな公共施設をめざして。

ケイスリーは昨年度、その丸亀市の取組みを支援させていただきました。

丸亀市に「みんなの劇場」をつくる

丸亀市では、新しい市民会館(仮称 みんなの劇場)の建設が予定されています。開館予定は2024年頃。それに向けて、まずその目的や運営・経営方針などを示す基本構想が策定されました。そこで掲げられた理念は3つ。

1.豊かな人間性を育む
2.誰一人孤立させない
3.切れ目ない支え合い

どうしたら、「みんなの劇場」という施設がこの理念を体現できるのか?こうした地域をつくる一翼を担えるのか?「みんなの劇場」が「みんなの劇場」であるためには?それが今回のプロジェクトの問いでした。

文化芸術には、それと関わることを通じて、一人一人の人生が、人と人とのつながりが、そして地域や社会が、より良く、より多様で、より豊かなものになっていく、そういう(社会的)価値があることが注目され始めています。

「みんなの劇場」が、文化芸術活動の拠点として、文化芸術の持つ社会的価値を引き出し、それを市民一人一人に届けていくためには、立派なハコをつくるだけでは十分ではありません。ハコに、魂を宿すことが必要になってきます。

どうしたら「みんなの劇場」であり続けられるか

丸亀市では、「みんなの劇場」のあり方について、市民と膝詰めで話す「車座集会」や、ともに考える市民ワークショップなどを継続的に行っています。

こうした「みんなとつくる」取組みに加えて、開館後は、そこで行われる事業の成果を評価しながら事業運営をしていく(社会的インパクト・マネジメントを行う)という方針がとられており、これが「ハコモノ」を「ハコだけ」にしないため、画期的な挑戦と言えます。整備計画には、このように書かれています。

みんなの劇場の評価は、実施済みのものを評価すること自体を目的とするのではなく、みんなの劇場の基本理念を達成するための戦略や事業を行うことによる社会的な成果を見える化し、そのことによって戦略や事業をより適切な方向に導くことで、成果を高めていくことを目的とします。

ここには、2つの大事な点があります。1つめは、やったこと(アウトプット)だけではなく、成果(アウトカム)を見る、ということ。2つめは、それを測るだけではなく、より良い運営に活かしていく、ということです。

劇場の成果(アウトカム)を見る、とは

「みんなの劇場」では、3つの基本理念を達成するための5つの基本方針のもと、6つの事業を展開する方針を掲げています。

コメント 2020-04-12 164014

ここで、「鑑賞事業」を例に考えてみます。たとえば鑑賞事業が「幅広い市民が感性と感受性を育む」という目標を持ち、他の5つの事業と組み合わさって、基本理念につながっていくとします。(あくまで仮の設定です)

<鑑賞事業のロジックモデル例>

コメント 2020-04-12 163030

鑑賞事業を通じて、文化芸術が「幅広い市民」と繋がるには何をしたらよいか。上演分野の幅を広げる、子供と一緒に来られる(静かにしなくてもよい)回を設ける、低価格の回を設ける、障がいのある方も楽しめる整備をする、時間を柔軟にする、など色々なアクティビティ(活動)が考えられます。

では、実際にその活動が1ヵ月間でどれだけ実施されたか。そのアウトプットを測ることは大事な一歩です。自分たちの行動を振り返る。ただ、それだけでは「今月は少なかったので、来月はもっと増やしましょう」くらいの改善しかできません。

そこで、それによる変化(アウトカム)に目を向ける、ことになります。自分たちの活動によって、本当に、これまで足を運ばなかった/運べなかった人が劇場に来て、楽しむようになったのか。来場者アンケートで過去の来場回数を聞いて、ゼロや少ない人が増えているのか。年齢や性別などを聞いて、偏っていないか。測る方法はいろいろと考えられます。アウトカムを見える化することで、「活動は十分やっているけれどリピーターしか来ていない。原因を探って活動を変えてみよう」という改善につながるのです。

最終的には「幅広い市民が感性と感受性を育めたのか」を見たいところですが、このような大きな変化は一事業だけで起こせるものではなかったり、そもそも測るのが難しかったりするので、事業としては、上図(ロジックモデル)の「初期アウトカム」辺りまでを測るのが現実的と考えられます。

誰が、ロジックモデルや指標をつくるのか

実際の事業運営で使われるロジックモデルや成果指標は、他の誰でもなく、運営者自身によってつくられることが理想です。(ここでの運営者は、運営受託者に限らず、委託者である丸亀市や、「みんな」たる市民も含まれます。)

この事業は、誰のためのものなのか。何をめざすのか。それをどのように達成するのか。そして、成果は何によって測られるべきなのか。それを考え抜いて、ロジックモデルや指標として表現すること。第三者や専門家は、あくまでその実現を助け、客観的な妥当性を補完する役割に過ぎません。

「みんなの劇場」が「みんなの劇場」であり続けるために。公共文化施設に社会的インパクト・マネジメントを導入するという、前例のない、画期的な挑戦を、私たちはこれからも応援、支援していきたいと思っています。

(文 今尾江美子)

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