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神奈川県SDGs社会的インパクト・マネジメント実践研修 【第4回】開催レポート

はじめに:「SDGs社会的インパクト・マネジメント実践研修」第4回が開催されました!

今回の研修は、グループに分かれて、各自がこの研修への参加目標に対して、現在どの程度達成しているかを話合うワークから始まりました。グループを除いてみると、以下のような声が聞かれました:

・ 作業の進捗度合いは満点100点に対して80点であるがが、内容の実践にはまだ至っていないので60点。

・ロジックモデルの整理はだいぶ進んでいて80点であるが、測定したいデータの定量化をどこまで精度を上げられるか、また実践にどこまでもっていけるか、という部分が残り20点。

実践研修第4回では、作成したロジックモデルを活用する、すなわち社会的インパクト・マネジメントにおけるPDCAのDo(データ測定)、Check(データ分析)、Act(解釈・活用)について、学んでいきます。

1.有効なデータ分析・活用の方法とは?

データの分析手法は、収集するデータの種類と活用目的によって決まります。データ分析は手段ですから、目的に応じた手法の選択が重要です。

本研修参加組織で、多くの深刻な課題が認識されている女性アスリートをとりまく環境に対して、社会貢献事業ではなく、本業を通じて取り組んでいる大和シルフィード株式会社の事例を見てみましょう。

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この例では、ロジックモデルで設定したアウトカムの一つ「女性アスリートに適したサポートが得られる」の達成度合いを測るために、7項目の「女性アスリートのための身体面のサポート充実度」を指標として設定しました。

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これらの指標データは、女性アスリートへのアンケートを通じて数値データを取得することとしました(データの種類)。また、ここで得られたデータは、サポート体制の見直しと改善に活用することを目的としています(活用目的)。そこから、分析手法としては、単純集計による目標値との比較並びに時系列での比較が妥当と判断しています。

データ分析・活用にあたって注意すべき点があります。

① 目標値は、データ収集前に

データ収集の結果を基に、その後のアクションを考えていくことになります。そのためにも、どんな結果であれば良いのか(または悪いのか)という判断基準は、データ収集の前に設定しておくことが大事です。

② データが生み出される背景文脈に注意

データは、様々な要因の影響を受けて生み出されます。例えば課題に関連する知識インプットのためにターゲットに講習を行った場合、講習を行った組織や講習の開催時期などによっても、データは影響を受けることがあります。社会的状況の変化を踏まえない分析によって、誤った結果を導いてしまう可能性があります。

③ データの可視化は、誠実に

分析結果を伝わりやすいように可視化をすることは有効です。一方で、自身に都合の良い部分だけ切り取るなどの編集は、誤解を与える可能性があります。

④ 中間アウトカムの測定では、前後のアウトカムとの関係を改めて確認

特に中間アウトカムは、その名の通り、前後にもアウトカムがあることが想定されるものですので、前(直接アウトカム等)や後(最終アウトカム等)とのつながりを改めて確認することが大切です。

2.関係者との共有・対話への活用

データ分析結果は、改善策を導き出すことに加えて、ロジックモデルと合わせて関係者との共有・対話にも活用することが可能です。
こちらも事例を見てみましょう。

横浜市と公益財団法人横浜市芸術文化振興財団が実施した事業Yokohama Art Lifeでは、事業成果測定の設計と、測定結果を報告書にまとめています。

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要約1:報告書では、まず測定結果を数値で明確に示しています。

要約2:それに対し、事業の取り組みを図で説明しています。

要約3:その後、定性的な情報やビジュアルイメージなどを示して、読み手の理解を促しています。

データ分析結果を関係者との共有や対話に活用する際にも、誰と何のためにコミュニケーションをとりたいのか、という観点で整理していくことが重要です。この報告書の場合は、広く横浜市民や横浜の行政関係者などを読み手として想定しており、わかりやすさを重視したまとめ方となっています。

この後、グループに分かれて作業進捗に対するメンタリングが行われました。その場においても、参加組織からは上記観点に関連するコメントがいくつか聞かれました。

・データ分析結果を誰に対して提示したいのか、という観点はやはり気を付けている点。例えば、自社サービス提供を促進してもらう自治体に対する説明と、サービスを使ってもらう住民に対する説明は全く異なってくる。

・測定したいアウトカムについて、一般的な指標がない、また比較対象もない分野において事業をしている。その中においては、提示したい相手とのコミュニケーションがより大事になる。相手自身も見えていない目的や現状があったりもするので、そこを変えるようなコミュニケーションも求められると思う。

3.ロジックモデルを活用した事業者と金融機関との対話 -実践-

参加組織は再び2つのグループにわかれ、ゲストの金融機関に対して各グループから3組織が、今回の研修で作成したロジックモデルなどを用いてプレゼンテーションを行いました。それに対して金融機関の視点から改善に向けての様々なフィードバックがなされました。項目ごとに重要な点をピックアップしてご紹介します。

ロジックモデルについて

・目的を明確にしてロジックモデルを作成することが大事である。ロジックモデルで事業について伝えたいことを全てカバーできるものではないことは事実。しかし、ステークホルダーごとに整理し、端的にストーリーを見せていくことが重要

・マーケティングにおいて受益者と顧客を分けて考える方法がある。ロジックモデル上においても、その二者に分けてマーキングしてみると、相手が関心のある部分に注目をひきやすくなり、ロジックモデルの訴求性が上がる

・ロジックモデルの活用シーンは事前に設定しておくとよい。そのシーンに使える共通データをプールして準備しておくと効率的である。

指標について

指標設定の際に因果関係が本当にあるかが重要。指標は完璧にみえても、統計学の観点でみると因果関係が見られないこともある。

・指標がどんなに素晴らしくても、自身の組織にとってデータ収集が業務ではない。現実的に収集できるデータか、データ収集業務の負荷が大きくないか、外部に提示できるデータか、という観点でも検討し、バランスをとる必要である。

・金融との接続という観点で、指標が企業の収益にも貢献しているかをしっかり説明するべき。

伝え方について

指標自体が単独のものではなく、一つのストーリーとして語れるものであることが理想的。本来的にそうあるものだし、金融機関や投資家からもそういった観点で見られる

・ロジックモデル上の指標の一部が、組織の収益性・事業性とも重なると、事業が非常に立体的に見えるようになってくる。

・対話の相手に対して、自身の組織が対象とするマーケットにニーズがあること、自らの組織ができることや優位性は自信をもって訴えていくべき。それらの点は、その会社の収益にもつながるところでもある。

事業とSDGsの関連性について

自らの事業が、社会課題のここの部分!というのに全集中する、というのが大事。そこで事業者が向き合う相手、サービスを提供する相手が誰なのか、そしてそこに最高のものを届けられるのか、という問いにきちんと答えられるのかが最重要である。

・元々こうした社会課題解決を中心に考えたわけではない事業もあるだろう。しかし投資家は今、投資先事業が環境、社会にどういうポジティブインパクトを生み出せるのか、またはネガティブインパクトがないのか、という観点を取り入れようと動いている。その動きに対して、まさに事業者側がその観点のストーリーを構築し、見せていくという動きで応えることで、チャンスがさらに広がるのではないかと思っている。

おわりに:次回に向けて

今回の研修で参加組織の皆さんには、作成したロジックモデルを実際どのように活用できるのか、その具体的なシーンを体験してもらえたと思います。次回(1月22日)はとうとう最終回!全参加組織が、今回の研修参加の成果を発表します。お楽しみに!

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