何もない、の‘何も’の正体
「この街には何もないのよ」
誰しも、一度は聞いたことがあるようなセリフ。
僕はこの言葉がちょっと苦手。
何もない、の‘何も’が何を指しているのか分からないから。
みんな、何を求めて、何に不満を感じているのか。
僕にはその正体が分からなくて、そこにはどこか得体のしれない何かが存在しているような気になってしまうのだ。
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東京ならあるのか
「この街には何もないのよ」
と口にする人は東京に行けば満たされるのだろうか。
僕は残念ながら東京で暮らしたことがないから分からないけど...
きっと欲しいものは、お金を払えばほぼ揃えることができるような街であることには間違いないと思う。
食料品も衣料品も生活雑貨も不動産も自動車も...
運動施設もアミューズメント施設も....
手に入りやすい、足を運びやすい。
それらは地方にはない魅力なのかもしれない。
でも、「この街には何もないのよ」と口にする人の多くは東京には行かない。
働き口がない。物価が高い。人混みが苦手。
何かしら理由をつけて、不自由で‘何も’ない街に居続ける。
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地方にはないのか
「この街には何もないのよ」
と言われるような街には、本当に何もないのだろうか。
たしかに、東京のように欲しいものが手に入りやすく、どこにでもアクセスしやすい立地ではないのかもしれない。
でも、それらはあたなにとって本当に必要なこと?
今の時代、必要なものはネットである程度のものは買うことができる。
実店舗に足を運んで‘何か’を買わなくても事足りてしまう。
行きたいところだって、インフラが整備されている日本なら日本国内はもちろん、海外にだって簡単にアクセスできる。
それは、もちろん東京と比べれば不便ではあるかもしれないけれど...
そんな毎日遠方に出かけるような生活を送っている人は少ないはずだ。
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求めれば手に入る時代のなかで
TwitterやInstagramなどのSNS。
アマゾンや楽天市場などのネット通販。
YouTubeやニコニコ動画などの動画共有サービス。
Amazonプライム・ビデオやNetflixなどの動画配信サービス。
欲しいもの。見たいもの。知りたいこと。
それらは全てスマホで簡単に手に入れることができる。
求めれば手に入る時代で、必ずしも都会でなければ手に入らないものは以前よりもずっと少なくなっている。
‘何も’ない街でも、楽しく暮らせる時代になったのではないだろうか。
でも逆に、スマホの1クリックで何でも手に入る時代だからこそ、僕達は満足しにくいのかもしれない。
僕達に本当に必要なことは楽しさを作ったり、探したりすることではないかと思ったりする。
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小さくて、素敵な出会い
先日、カメラを持って散歩した。
朝9時から歩きはじめて、気づいたら11時になっていた。
散歩途中で見つけた喫茶店でお昼をとることにした。
70代ぐらいの店主が僕に向かって
「素敵なカメラですね。ミノルタですか?」
と、言った。
ミノルタは、昔カメラを作っていた会社。
−今の若い人は知らなさそうだよな。
なんて思いつつ
−これは、オリンパスのカメラですよ。
と答えた。
「小さくて、良さそうなカメラですね」
とおじいちゃん店主が笑った。
お会計のときに
「今日はカメラを撮りにきたんですか」
と言われた。
−実は、遠くに引っ越すことになって。その前に写真を撮っておこうかと思ったんです。
「思い出作りですね」
とおじいちゃん店主に言われて、ハッとした自分がいることに気づいた。
僕はこの街に特に何の興味も思い入れもなかった。
写真を撮ることも、カメラを持って散歩することも、他に特にやることがなかったからだと思っていた。
でも、おじいちゃん店主が何の気なしに言った言葉が。僕に、
−この街の景色を写真として残すこと。それは、この街で暮らしていたこと、この街で出会った多く友人のことを思い出として残すこと。
そう気付かさせてくれた。
散歩しないと気づかないような小さな喫茶店の、おじいちゃん店主が僕の心に新しい発見と驚きをプレゼントしてくれた。
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‘何も’ないなら探そう。作ろう。
「この街には何もないのよ」
−何もないなら探しにいこう。
−何もないなら作っちゃおう。
何もない、って可能性に満ち溢れている。
たくさんのチャンスが転がっている。
他の街と同じになる必要なんてないと思う。
だって、他の街にあるならその街に行けばいいんだから。
あのとき、散歩しなければ出会うことのなかったおじいちゃん店主は、スマホでは得られなかった発見と驚きをくれた。
僕に本当に必要なことを教えてくれた。
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自分だけの宝物を探して
僕は来月、北海道に引っ越します。
そこで暮らす人は、やっぱり
「この街には何もないのよ」
と、口にする。
中高年層の人に至っては
「昔は活気があったのよ」
と言う。
関東で暮らしてきた僕にとって、その街には魅力的にみえる部分がたくさんあると思っている。
でも、そこで暮らす人には街の魅力は見えていない。
見ようとしていない。
いつも、遠くの都市を憧れたり、遠い過去の街に想いを馳せている。
海無しの県で生活してきた僕にとっては、海が近いだけでも魅力的にうつるのに(笑)
僕は、この街でも、あの街でもカメラ片手に散歩をしたい。
スマホでは手に入らない出会いと経験を求めて。
自分だけの宝物を探して。
いつも読んでいただき、本当にありがとうございます。