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高校における通級指導1年の振り返り①

こんにちは。栗原白帆です。通級について書き留めていくつもりが、あっという間に年度末が見えてきてしまいました。
1年間を振り返りたいと思います。

今年度T2(といってもほとんどただ見学していただけですが^_^;)として通級指導をした中で最も強く感じたことは、目的地の設定の重要性、でした。まずはそのことから書き留めていきます。


通級の”目的地”とは

目的地とは今苦手なことの中で、何ができるようになりたいか、ということ、つまり授業目標です。

たとえば私が担当した生徒Aは場面緘黙なので、最初は「声がすぐ出るようになりたい」と言っていました(筆談にて確認)。
でもこの目標は1年で目指すには遠すぎる目的地です。
そこでT1の先生が設定したのは、就職を前提とした「生活する中で最低限必要なやりとりができるようにする」でした。

SST(Aの場合)

本校はもともと不登校の生徒が多いので、遅刻や欠席はしかたない、単位修得に関わらない範囲でならいいよ、という雰囲気があります。そのかわり連絡をしてね、というのが基本スタンスです。
そんな風潮の本校において、Aは数少ない皆勤の生徒でした。遅刻もしない。そんなAが通級指導が始まって2か月ほどしたころ、1度だけ授業を休んだことがありました。珍しいことなので次の授業でその理由をたずねたところ、

「電車が遅延で間に合わなかったけど、それを学校に連絡することができないので休んだ」

という返答でした。私にはかなり衝撃的な返答です。
さらに聞くとAは保健室や相談室(心が疲れた時などに休憩できる)を利用したこともありませんでした。そこに行きたいという意思表示や、理由が説明できないからです。

これは大変だろう、というのが正直な気持ちでした。
学校でも職場でも、休みたい、と言えない状況は、想像するだけで疲れてしまいます。

このエピソードを受けて、T1の先生が建てた目標が上記の「生活する中で最低限必要なやりとりができるようにする」だったのです。

具体的には
・職員室に入るときに「失礼します」「失礼しました」を言う
・遅刻・早退の連絡のやり取り
・保健室・相談室へ行くための手続き
・提出物を手渡しするときのやり取り

といった、学校生活を送るにあたって最低限必要なやり取りをマスターすることからスタートしました。

トレーニングは指導者がセリフを準備し、役を割り当て、お互いに声に出して読むことから始めます。
いわゆるロールプレイです。通級指導に使っている教室を職員室に見立てて、入り方、要件の伝え方、手続きの仕方、退出のしかたなどをロールプレイした後で、実際に職員室に行き、そのとき居た教員の協力を得て、実際に手続するという練習を繰り返しました。

トレーニングの前には発声練習も行っています。北原白秋の「あめんぼあかいな」を2~3回繰り返して声出し練習をし、発生しやすいのどを作ってからロールプレイ、実地練習、という順番です。

この授業内容は場面を変えながら9月頃まで続きました。

高校の通級指導でできること、できないこと

はじめAの希望は「友だちと自由に会話ができるようになる」ということだったように思います。
Aに限らず通級指導を希望する生徒はコミュニケーションに困難を抱える生徒が多いので、ほとんどの子が「友達を作りたい」と思っています。

ですが、今年度通級指導を通じて感じたのは、「友だちを作る」というのは、相当難易度が高く、はっきり言ってオプションに近いものだ、ということです。

SSTのテキストを見ると、どれも友人関係や恋愛のルールについて触れていますが、私個人の考えでは、それはSSTの中でもかなりレベルの高い課題であって、必ずしもトレーニングを積んで取得できる力ではないと思います。
友人関係や恋愛のコミュニケーションには型がなく、その場の状況や相手の気持ち、周囲の雰囲気などを同時進行で推し量っていかなければいけません。声の大きさの調節ができず、興味のある話題を延々と話し続けてしまうような子が、周囲の状況を「推し量れる」ようにするなどというのは高校の通級指導でできる範囲を超えています。

欠席連絡もできない子がいきなりそこを目指すのは、ろくな登山経験もないのに、手ぶらでエベレストに挑戦するようなものです。必ず挫折し、路頭に迷ってしまいます。

SSTではまず型通りのコミュニケーションをマスターした方がいい。
セリフを覚えて暗唱すれば自動的に手続きできるような、マニュアル的な会話こそ習得すべき課題です。
なぜなら、生活していくための最低限のやりとりはたいてい型通りのやりとりでこなしていくことができるからです。

まずは徹底して生活に必要なコミュニケーションを習得する。
いろんな困難を抱えながら普通科で過ごしてきた子たちに、高校の通級指導でできるのはそれじゃないか、と感じました。

続きます。




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