メイキング/「羊たちの教室」が影響を受けた作品について
先日、拙作「羊たちの教室」が「水曜日のシリウス十」にて公開されました。
クローンを題材にしたSF作品で、同質的なキャラクターとの相互理解と苦悩を描きました。
こちらのリンクから読めます。無料ですのでぜひ。
僕は作品のメイキングやあとがきの裏話、セルフライナーノーツを見るのが大好きなので、手前味噌ながら影響を受けた作品について、魅力的な部分や参考にした部分を書いていきます。
どれも面白い作品なので、興味があればぜひ見てみてください。
「カッコーの巣の上で」ミロス・フォアマン/1975年
アメリカン・ニューシネマの代表的作品の一つで、個人的に好きな映画ベストテンに入るくらい大好きです。
ストーリーに関しては、この作品が一番影響を受けています。なんならほぼパクったと言ってもいいくらい下敷きになってます。
テーマは「抑圧への闘争」でしょうか。閉鎖された精神病棟の中で自由を求めて、露悪的に自由に振る舞う主人公マクマーフィと、彼に影響を受けて押さえ込んでいた人間性を取り戻していく患者たちの姿がとっても素敵です。
最終的にマクマーフィはロボトミー手術を受けさせられ廃人になってしまうのですが、患者の一人チーフは、マクマーフィから託された希望を胸に病棟から脱走します。悲しみを抱えながらも勇気をもらえる最高のエンディングです。
余談ですが、この映画を初めて見た時にはチーフ(ネイティブアメリカンの男性)がなぜ精神病棟に入れられてるのか?まで想像ができていませんでした。
彼は無気力に見せかけていますが、精神病のような感じではないのです。
この辺りはアメリカの対インディアン政策について調べてもらうと、より理解が深まると思います。
保護に見せかけた迫害という、ネイティブアメリカンの人々がたどった歴史(アメリカの暗部でもある)の一端として、チーフは精神病棟にいるのではないかと思いました。
このあたりの歴史が描かれている映画はいくつかありますが、最近の作品だと「キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン」(マーティン・スコセッシ監督)なんかがおすすめです。
「羊たちの沈黙」ジョナサン・デミ/1991年
これは内容というよりタイトルをここから借りました、というやつです。
みんな大好きハンニバル・レクター博士が登場するサスペンス映画。
FBIの訓練生クラリスが、連続猟奇殺人犯を追うため、収監中の殺人犯で精神科医レクター博士に協力を求める、というお話。
レクター博士はいわゆる「安楽椅子探偵」のような立ち位置ですが、彼は犯人捜索と引き換えにクラリスのプライベートを知りたがります。囚人でありながら師匠のようなねじれた関係性が魅力の作品です。
賢くて冷静な狂人というカテゴリってレクター博士由来な気がしませんか?それくらいインパクトのあるキャラクターですよね。
この作品での「羊」は無力な存在の象徴として描かれていますが、「羊たちの教室」ではその意味も踏まえつつ、世界初のクローン羊ドリーにもかかってます。
ここからは「クローン」を題材に扱った作品で、僕が特に好きな作品についていくつかお話しします。
これらの作品と「いかに差別化するか?」が大きな課題でした。クローンあるあるは押さえつつ、違いを出さなければパクリと言われてしまう…そのあたりは気を遣いました。
「アイランド」マイケル・ベイ/2005年
「トランスフォーマー」シリーズでおなじみのマイケル・ベイ監督が作ったディストピアSFアクション映画。
ディストピアというテーマ性強めの設定×ド派手アクションを楽しめる良作。ただし興行成績はイマイチ。
核?によって世界が汚染され、そこから救助された人々が暮らすコロニーが舞台。主人公のリンカーン・6・エコーは、最近妙にリアルな夢を見ていて、それがなんなのか気になって仕方ない。しかもこのコロニーには色々と奇妙なルールがある中で気になる女性と出会う…というのが序盤の物語。
しかし「汚染から守られたコロニー」というのは嘘で、本当はクローンの製造施設だったのです。
彼らは金持ちの顧客の商品でした。用途は内蔵移植のためのスペア、代理母など…。
ディストピアものかと思いきやクローンものか!というSFジャンル急旋回っぷりが最高。そして監督お得意のカーアクションがめちゃくちゃかっこいい。
僕としては大好きな作品なのですが評価がイマイチな理由は、クローンものはどうしても倫理観のドラマを求められてしまうからだろうな〜などと思ったりします。マイケルベイの映画はドッカンアクションで主人公が勝てばそれでええんや。
「スター・ウォーズ クローン・ウォーズ」デイブ・フィローニ/2008年
スター・ウォーズシリーズのスピンオフ作品で、「エピソード2/クローンの攻撃」から「エピソード3 シスの復讐」の間の3年間をつなぐアニメシリーズです。
作中に出てくる「クローン・トルーパー」と呼ばれるクローン兵士たちは、銀河共和国の軍隊として製造された存在です。
彼らはかなり個性豊かで、自分のアイデンティティに苦悩するといったクローンあるあるはあまり描かれません。
結構内輪ノリがあったり、遺伝子同じなくせによく喧嘩したりします。「よう兄弟!」という感じの描かれ方ですね。
まあスター・ウォーズですしね。テーマ性より娯楽性ですよね。
スターウォーズ好きでこれ見てない人は絶対見た方がいいです。「アソーカ」や「マンダロリアン」につながる話も出てきます。めちゃくちゃ長いのが難点ですが…(100話以上ある)。
「羊たちの教室」にワンというキャラが出てきますが、これは「クローン・ウォーズ」に登場するファイブスというキャラの名付け方と全く同じです。製造番号由来。
「放課後のカリスマ」スエカネクミコ/2009年
歴史上の偉人たちのクローンが通う学園があり、彼らの特性を活かして卒業後は社会で活躍している。そこに唯一「クローンではない」主人公がいる…という設定の漫画作品。
卒業生であるクローン・ケネディが暗殺されたりして、クローンの学生たちがオリジナルとの整合性に悩んだりするのがめちゃくちゃ面白い。
クローンものを描こう、となった時真っ先に思い出したマンガなんですが、最後まで読めてないんですよね…。ぶっちゃけ設定似てるので、あえて読み返すことはしなかったです。
制作のきっかけ
「クローン」というのは、その発生源から「倫理的問題」をテーマとすることが多いです。それに関連して「アイデンティティ」の問題もよく描かれます。
「羊たちの教室」では、「労働力としてのクローン」を描きました。これは制作のきっかけが「就職活動の歪さ」だったことに由来します。
就活で皆が同じスーツを着て面接に望むのに、個性をアピールする場所だということ。リクルートスーツの均質さへの違和感。
また仕事での「マニュアル対応」もきっかけの一つです。
マニュアルは企業側にとって便利かつ、労働者側も仕事を覚えやすくなるメリットがありますが、その人自身の個性や能力は必要とされないものだということ。
そんなようなテーマを「クローン」という題材に込めて描きました。
そんな感じで作ったので、ニコニコ静画に書かれていた「テーマ先行だと作品が面白くならない」みたいなコメントがブッ刺さりましたね…。
いや、わかります…自覚あります…。でも面白いと思って作ったんです…笑。
ということで「羊たちの教室」をセルフ解体してみました。
果たしてこれはメイキングなのか…?いやメイキングだ。内容の方の。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。