ふるさとの電気を買う

 ふるさと納税というと、皆さんが思い浮かべるのは、その土地の食べ物でしょうか。それとも、某市で問題になったAmazonギフト券でしょうか。

 ふるさと納税制度には、いろいろ矛盾点とか問題点もあるとは思います。しかし、おそらく納税額に見合う行政サービスを受けていないであろう、大半の納税義務者にとっては、支払った税金がわずかでも生活の足しになったり、ちょっとした贅沢になる返礼品はありがたいものです。

 また、例えば都市部に住んで仕事をしている人は、会社や仕事を通じてその都市に税を支払っているわけです。なので、個人として支払う税を、出身地や思い入れのある地域への貢献に、少しでも役立てたいと思うのは、当然と言えます。

 実際に、ふるさと納税がどれほどその地元への貢献につながっているかは分かりません。しかし、各地で工夫を凝らした返礼品が開発され、特に今まであまり知られていなかった地域が注目されたりと、一定の地方活性化の効果はあったと思います。

●お礼の電力?

 そんな中で、電力小売自由化によって、面白い取り組みをする自治体が出てきました。それは、電力を返礼品として供給するというものです。

 例えば、以下のサイトで紹介しています。

群馬県中之条市:お礼の電力
https://www.furusato-tax.jp/product/detail/10421/668224
鹿児島県いちき串木野市:ふるさと電気
https://www.furusato-tax.jp/product/detail/46219/4438114
長崎県五島市:ごとうの電気
https://furunavi.jp/product_detail.aspx?pid=205148

(他にも行っている自治体はありますので、一例です。)

 仕組みとしては、以下のような感じです。

①ふるさと納税を申込
②各自治体の地元の「小売電気事業者」と契約
③返礼品で購入した相当容量(kWh)の「電力量料金」を電気料金から減額

 ちなみに各小売事業者とも、発電事業者として地元に太陽光発電所や風力発電所を所有しているのがポイントです。但し、送配電は「一般送配電事業者」の託送サービスを利用する関係で、返礼品の電気を受け取れるのは、その地域の送配電事業者管内に限られるようです。

●日本版シュタットベルケ

 もともと電気の小売自由化は、日本のエネルギコストを低下させるのが目的でした。エネルギコストは、どんな業界でもかかってきます。そのため、あらゆる業種で国際競争力が低下しているのを鑑み、競争原理を導入してコストを下げようと考えたわけです。

 しかし、再生可能エネルギの普及拡大により、副次的効果として、エネルギの地産地消による地方経済の活性化が期待されたわけです。

 ドイツでは、シュタットベルケと呼ばれる地方自治体の出資する公社が、電気・水道・ガスの供給事業を行っています。日本もこれまでは実質「公社」のようなものでしたが、経営は民間企業と同じように、リスクを取りながら行われているのが異なります。

 シュタットベルケのモデルは、地域が支払うエネルギコストが海外や都市部に行かず、地域全体で見ると支出を減らす事に繋がります。ところが、人口減少問題が深刻な地方では、そもそも需要が少なく事業が成り立ちません。

 そこで、ふるさと納税を活用して、地元で発電した電気を買ってもらおうと始めたのだと思います。本来、シュタットベルケは地域に供給する、「エネルギの地産地消」を目指す形ですが、事業継続のために需要を確保するため、都市部へ供給を行おうということです。

 つまり、そこに日本版シュタットベルケを立ち上げる際の、日本特有の限界があると考えます。

●電源の地方分散化を進めるには

 エネルギの地産地消には、以下の技術的なメリットもあります。

①長距離送電による損失を低減できる
②送電電圧を低くできるため施設断面積を小さくできる
③発電所や送電線の事故の影響範囲が限定される

 現在は、主に人口の少ない地方に大規模発電所を設置し、275kV や 500kVという「超高圧」の電圧で、都市に近い変電所まで送電しています。

 ちなみに、1000kV級の送電技術の開発も行われていたようですが、今後の人口減少により、それに見合う電力需要の伸びが見込めないという事で保留になったようです。

 ところで、タービン発電機の電圧は、高くても 25kV 程度なので、発電所内でわざわざ超高圧変圧器で昇圧しています。それは、同じ電力を送電するのに、

電力 P = 電圧 V × 電流 I

で、

電圧が高い程、電流(流れる量)が小さく

なるからです。電流が小さければ、流れる際の損失も小さく、電線も細くできます。

 しかし、送電電圧が高いと、送電線同士や、地上との距離を離す必要があり、鉄塔などの工作物は逆に大きくなります。

 また、それだけ電圧を上げても、年間の送電損失は、およそ 400~500億kWh。これは、およそ原子力発電5基分で賄う電力量に当たります。

 この問題を解消しようと、現在

損失のもとである電気抵抗が "0" となる「超電導ケーブル」

などが開発されようとしてます。しかし根本的な問題として、

「長距離送電をする必要がある」

という事があります。

 これは、都市部に人口が集中し、電力需要が集中する一方、需要地付近は住宅が多く、大型発電所を設置できない事によります。そのため、地方に大型発電所を設置して、長距離送電をするという方法が取られているわけです。

 だから、本当の意味で「地産地消」を進め、そのメリットを得るためには、

「負荷である需要地の分散」

を同時に進めていく必要があります。

 ただ、それには電源事情だけを考えればいいわけではありません。実際に住宅やオフィス、工場などの需要を作るためには、インフラを全体的に整備する必要があります。

 現在は特に、「通信インフラ」も重要です。しかし、地方はまだまだ通信線の容量が不十分です。それは、

「都市部はインフラが整っているから需要が集まる」

という事情があり、また

「需要があるからインフラ整備が進む」

とも言えます。

 これは

「鶏が先か卵が先か」

というような話です。しかし、とにかく人が集まらない事には何も進みません。ふるさと納税で少しでも税収が上がったのなら、長期的な観点で、まずインフラ整備を進める事を考えたらどうかと思います。

●電力インフラの持続可能性を考える

 一方、大規模発電所と長距離送電が、都市部への需要の集中に応え続けられるかというと、それも怪しくなってきました。

 まずは災害です。災害の規模が年々大きくなっているのは、皆さんも目にしている通りです。そして、設備が大きくなるほど、被害の及ぶ範囲も大きくなります。

 それから、保守や運用の問題です。このままさらに都市部に人口が集中すると、地方の人口減少は加速度的に進みます。

 しかし、発電所や送電設備の保守のためには、地方での人材確保が必要です。一方、都市部の需要は増すため、設備は高度化します。

 そのような状況で、担い手を育成して、人材を確保していけるでしょうか。もちろん、作業の省力化や無人化も進むでしょうが、それこそコストなどの問題もあり、根本的解決になるとは考えられません。

 結果的に、日本全体で見ると、人口が減少していく中で、エネルギコストが増加していくというシナリオが見えてきます。電力インフラというか、日本社会の持続可能性を考えると、今後は色々な意味で

「分散化した小さなシステムを回していく」

という社会づくりが必要になると思います。

 分散化は分散化で、またデメリットや難しい点もありますが、それはまた別の記事で考えていきたいと思います。

 ということで、今回は「ふるさと納税の電気」から、電力インフラを考えてみました。

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