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「あなた」再訪

 以前のノートで、小坂明子「あなた」の歌詞について言及した。そこでは、「私の夢」を構成する要素として「大きな窓」と「小さなドア」を備える「小さな家」、部屋の中の「古い暖炉」、「真っ赤なバラ」、「白いパンジー」、「子犬」という非人格的要素と「あなた」とが並列関係に提示されていることに違和感があり、その原因を「他の人格が自らの夢の一要素に過ぎないという世界観」であるとした。
 さて今回は、徳永英明のアルバムVocalist 2を聴いていたら、偶然にも「あなた」がカバーされており、2番まで聞いて更なる発見があったので、報告しようと思う。

 1番の歌詞は、上述のように自分の幸福の構成要素を列挙したうえで、「それが私の夢だったのよ。愛しいあなたは今どこに」と終る。どうやら、「あなた」との幸せな家庭生活を夢見ている少女の前から彼は去ってしまい、行方は分からないようだ。それでも彼女の夢語りは2番に続く。
 曰く、

ブルーのじゅうたん敷き詰めて 楽しく笑って暮らすのよ 
家の外では坊やが遊び 坊やの横にはあなた あなたがいて欲しい

 ふむふむ。あくまで、自分の幸福を構成する要素を並べる方針なんだね。1番で子犬の横に配置されていた彼は、「いて欲しい」という「私」の一方的な願望により、2番では坊やの横に移動させられている。どうやら、最初に生まれる子は男の子と決めているらしい。
 ああ、これはお人形遊びに似ているね。リカちゃん一家の人形を、リカちゃんハウスの随所に配置して、即興のストーリーを演じさせる遊びのイメージだ。
 そしてそれに続けて、

それが 二人の 望みだったのよ…

  …えっ!?

 1番、2番を通して、ひたすら個人的願望を並べていたのに、2番の終わりにきて、急に「二人の望み」だったことになってるぞ! 

何たる自己愛、自己投影。

 こんな風に一方的に理想を押し付けられて、しかも、それを急に「二人の望みだった」と言われるんじゃあ、そりゃ彼は去りたくもなるでしょ。

いとしいあなたは 今どこに

 いや、ぜひ、彼のことは探さないで「いて ほ~し~い~♪」(笑)
                         (おわり)

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