短歌まとめ(2017〜)

泡立った炭酸を飲み君は言う熱さだけでは恋はできぬと

触れたなら火傷しそうな空洞に降り込んだのは融けかけの雪

底のない宗教にまた溺れては「鬱陶しい」の刃が刺さる

「ファッション」と人を突き刺すそのナイフ握った柄も我刺す刃

ぼさぼさの髪も梳かずに家を出る「90分はきみの隣で」

くくるにはまだ長くない後ろ髪夢ではきみが指を絡める

会えぬ夜きみの笑顔を浮かべては声を殺して枕を濡らす

目も視えず夢中で齧る毒林檎白雪姫にはなれやしないわ

毒蛇の牙も恐れず微笑んで手を差し伸べるきみは蛮勇

その叫び闇を切り裂き道となれ逆さまにした首の十字架

綺麗なのは月ではなくてあたしだろ嘘じゃないなら茶化すんじゃねえ

哲学に興味あるふりしています知識人ぶりたいだけなのに

あたしはねきみと違って苦手なのいじわるな星で呼吸(いき)をすること

あと何度きみに不義理を重ねればきみはあたしを殺してくれる

死は逃げと断ずるなかれ怪物の醜い牙に喰われる前に

店開けてネット開いて告知してチャリで帰って後は寝るだけ

錆びもせず回り続ける歯車はひとつ欠けても止まりはしない

終わる時辛くなるのが嫌だから好きにならない努力をするの

このいのち尽きるときまで忘れまいきみという陽が照らしたこころ

またひとつ心が砕ける音がした電子の海で息をしながら

宵山の山鉾に目もくれずただ屋台を回る浴衣カップル

得意げに南瓜を被るきみは魔女「少し早めのハッピー・ハロウィン」

誰しもがシンデレラになる今日の夜わざと落としたガラスのヒール

おずおずときみの手を通りぼくは言う震える声の「シャル・ウィ・ダンス」

「今日行くよ」すら言わず来たこのぼくの今宵の夢できみが微笑む

大好きときみが囁く耳元が林檎のように真赤に燃える

毒のこと愛と呼ぶなよ愚か者骨まで焦がす呪いの焔

暮れる街交わす契りは夢現確かめようと繋いだ手と手

漂う身ひとと獣の狭間にて叫ぶ祈りを聞く者はなし

掌を指でなぞって描いた零笑顔が照らす丸ではなしに

冬に咲く桜もいずれ散るだろう奇跡は短いからこそ奇跡

願わくばきみの隣にありたいと眠れぬ夜に唇を噛む

しをまねく不器用な手を引いたのはきみという名の北斗七星

付きあったしあわせだったさようなら時が経ったら短歌にされた

「それじゃあね」一言言って手を振った二度と交わらぬ点PとQ

店開けてネット開いて告知してチャリで帰って後は寝るだけ

愛しさで滲む視界に言い訳を欠伸のせいにしても許して

立ち昇る煙の元をきみは見る黄色くなったぼくの指先

あと少しきみの隣にいたいからわざと差さない折りたたみ傘

会いすぎて会えない時に辛くなるそれが怖くて言ったさよなら

「好きだ」「ばか」交わす言葉は何度目か凍空に咲くいとしさの華

パーカーを見て「お揃い」と言うきみのマフラーもまた薄紫で

ぎこちない笑顔を見られたくなくて口元隠すネックウォーマー

背が高くなくてよかったと思い見る同じ目線のきみのほほえみ

終わりなど始まらなければ訪れぬ捧げはしないすきの花束

沈みゆく冷たい海にただ二人泣いても誰も気付かないから

前きみがぼくに似てると言ったからロック画面は知らぬキャラクター

取り合う手祈っていよう今はただ名前が枷にならないように

せわしなく刻む鼓動はフォルティシモ「あんたのせいだ、責任を取れ」

帰り道きみを弔う彼岸花「好き」と言えずに過ぎた3年

青い鳥140字で紡ぐ愛「LINEでやれ」と言われて気付く

ざらついた髪を梳く度の憂鬱けれど撫でるその手は止めないで

今日もまた貰ったシュシュで留める髪「きっと似合う」と君が言うから

「お揃い」と言われて惑うその顔をスマホ片手に盗み見ている

目の前にきみという名の飴細工甘さを知れば融けて消えゆく

我が全てきみに捧ぐと誓った日ベッドに咲いた一輪の薔薇

透明なぼくらにナイフ投げながら「死にたい」「辛い」のバーゲンセール

初めての音をあなたに捧げよう39(ありがとう)のうた届けるミライ

寂しがる口で咳き込み吸う煙草いまだ知らない唇のあじ

今年こそ虎がセ界に牙を剥くそう叫ぶ3時34分

漂う身ひとと獣の狭間にて叫ぶ祈りを聞く者はなし

やめないか喧嘩も恋も友情もあたしもきみも間違ってるの

短冊に書いた願いは見ないでね「もっと素直になれますように」

最悪なインターネットの海でぼくエラないきみに呼吸(いき)を教わる


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