第3話:僕の風俗人生はこうして始まった。
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勤務初日。
僕をお店まで連れてきた男は「I」という名前で、1階から4階まである店内を僕を連れて歩き回り、スタッフに会うたびに僕のことを紹介して歩いた。
出会うすべての人が「I」に敬語を使い挨拶をしているのを見て、彼がこのお店で一番偉い人なんだと僕は認識した。
4階まである建物の中には、10人くらいのスーツの男がいて、ときどきセーラー服を着た女性ともすれ違っていた。
見慣れない光景に戸惑いと緊張があったがとにかく大きな声で全員に挨拶をしてまわった。
1階は受付とお客様の待合室、2階はボックスシートがたくさん並んでいて爆音で音楽が流れていた。シートの中からは女性の声や、聞きなれない何かの音がしていた。
3階は女性の待機室で、大きなテーブルを囲うように数人の女性とスーツの男が座っていた。
そして4階にはパソコンがたくさん置かれていて、事務所のような場所になっていた。
一通り店内を見てまわってから、僕はお店の前に連れていかれた。スーツの男が立っていてタバコを吸っていた。
「今日はとりあえずフロントにいて」
「I」からそう言われスーツの男と二人お店の入り口の前(フロント)に立った。
スーツの男の名前は「M」、金髪で色白でタバコを吸いながら道路に唾をしょっちゅう吐き、ときおり「おえっ」とえづいていた。歳は僕よりいくつか上そうだった。
一緒にタバコを吸いながら、フロントに立ち、Mは道を通る男全員に声を掛けていた。目の前の道に人がいなければ、遠くの通りを行きかう人に向かって大声で叫んでいた。
お客様はお店をめがけて一目散に歩いてくる人と、声を掛けられて足を止め、言いくるめられるように店内に入ってくる人と2パターンだった。
Mが店内へと誘導し、パネルといわれる女性の写真が並んだ壁の前に立つ別のスタッフが引き継いで接客をしていた。
店内からはトランスミュージックとマイクで叫ぶ声が爆音で聞こえていて、マイクで叫ぶ男はパネルの横の受付の中にいた。そこをリストということは後々しった。
この日の僕の仕事はフロントに立ち、たまにパネルの前にいる男から「おしぼり」と言われたら籠いっぱいに入った新品のおしぼりを2階へ運び、引き換えに籠いっぱいに詰まった使用済みのおしぼりを1階に下す。
これの繰り返しだった。使用済みのおしぼりが何に使われていたものなのか、その時の僕は知らなかった。ただ、水分を吸っているから行きより帰りの方が数倍籠は重たかった。
Mがフロントでやっている仕事は道行く人たちにとにかく声をかけることと、お店の中からマイクで「エスコート」と聞こえたらダッシュでお店の中に走っていき、お客様を2階へ誘導していた。
お昼になると中からスーツの男が来た。手にはホットモットのメニューとバインダーを持っていた。
お昼何を食べるか決めてとメニューを渡され、僕は緊張でお腹が空いていなかったのと、どういうシステムなのかがわからなかったので、なぜかいらないです。と答えてしまった。
後々この時ホットモットを頼めば良かったと後悔することになる。なぜならこの職場に弁当を食べる以外に休憩はなかったからだ。
初日にフロントに立ちMと会話した内容は一つだけ覚えている。
僕:「今日誕生日なんです」
M:「そうなんだ。これあげるよ」
と言われて五円玉をもらった。
「ありがとうございます」と答えて使い道のない五円玉をポケットにしまった。
つづく
※この話がフィクションかノンフィクションかはご想像にお任せします。
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