尻上がりに面白くなる稀有なギャグ漫画【くぼたまこと「天体戦士サンレッド」】

 Kindle Unlimitedがお試し期間のうちに読んだことない本を読もうのコーナー。

 名作ギャグマンガ「天体戦士サンレッド」を読んだ。なんと全巻無料で読める。すごいね。

 悪の組織とヒーローの対立を描いたギャグマンガという、よくある形式の作品なんだけども、それの金字塔的作品だ。秘密結社鷹の爪が好きな人は好きだと思う。

 神奈川県川崎市溝の口周辺を舞台に、ヴァンプ将軍率いる悪の組織”フロシャイム”と宿敵のヒーロー"サンレッド”が戦う、というのがあらすじ。
 サンレッドは2歳年上の保険外交員かよ子のヒモとして生活しており、ヴァンプ将軍およびフロシャイムとは有効的な敵対関係を築いている。

 ギャグマンガってだいたい初期が一番面白くて、絵がこなれてキャラが増えてくると「初期の方が尖ってて面白かった」と言われがち。でも「サンレッド」は違って、間違いなく後半の方が面白い。初期も初期で面白いんだけど、持ち味が出てくるのは「怪人が弱い」「悪の組織がアットホーム」「ヒーローがクズ」みたいな出オチネタをやり尽くしてからなのだ。

 初期のテンプレートはフロシャイム一味が怪人を連れてサンレッドに対決を申し込み、一瞬でやられてサンレッドに説教される、というもの。怪人も特撮番組よろしく一回きりしか登場しない。
 設定でオチてるギャグマンガが陥りがちな罠だが、回を重ねるごとに設定はオモシロとして機能しなくなる。読者も慣れるからだ。そうなると、手持ちのキャラだけでいかに面白く話を回せるか、という勝負になってくる。作者のくぼたはその技術が高かったのだろう。

 中盤でレギュラーキャラの面子が固まってきて、キャラの性格も定まってくる。
メダリオ・カーメンマン・ウサコッツの絡みが特に好き。キャラを配置するだけで話が生まれるようになればもう安泰だ。「サンレッド」は特にここが凄くて、キャラが生きている。生きているから、出会わせるだけで一本お話ができる。怪人がファミレスで話して終わるだけの回が山ほどあるのだが、そのどれもが面白い。もう怪人って設定要らなくね? ってくらいキャラの質感がリアルな「人間」なのだ。優れたストーリー設計は設定を置き換えても成立しうる好例だろう。特に印象的なのが怪人「闇の使者 ギルム」とサンレッドが居酒屋で出会う回。

 ギルムの部屋にコウモリが入ってきたので掃除機で吸って外に還した、というエピソードをギルムが話すだけなのだが、ちゃんと「話が面白い人」の話し方なので、地味〜なエピソードトークなのに身を乗り出して読んでしまう。サンレッドも「お前話おもしれーからまた飲もうぜ」といってこの回は終わる。
 凄くないですか? これ。まず作中のキャラがツッコミでなく「面白い」と言うのが珍しい。思い返してみるとサンレッドはボケでもツッコミでもない独特な立ち回りをするキャラなのだ。怪人のボケに対して「笑う」だとか「合いの手を入れる」ことが多い。ボケでもツッコミでもない、MCなのだ。ギャグマンガの多くが設定を活かした「コント」か、会話劇で魅せる「漫才」なのに対して「サンレッド」は「トーク」の笑いをやっている!

 終盤はゆっくりと時間が動き出す。「サンレッド」はサザエさん時空ではないのだ。ちゃんと時系列があるし、初期の設定のブレだったり前作のネタを伏線として活かしてくる。
 初期はモブ同然だったかよ子がちゃんとメインヒロインとして話を動かすようになってくる。ビジュアルも中身も一番変化したの、かよ子だと思う。読み返すと「誰?」ってなる。

 


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