ゾンビランドナナ #008

 レンジでカツ丼を温め、半分以上残して冷蔵庫にしまった。
 
 明日は何の仕事も入っていない。夜更かしをしてもよかったが、肝心のやるべきことが何も無い。
 風呂に湯を張ろうとして、ミチルが起きてこないのを見て、やめた。
 サプリメントの錠剤を口に含み、水道水で飲み込む。軽くシャワーを浴び、ジャージに着替えた。
 
 インターホンが鳴る。
 
 歯磨き粉をつけた歯ブラシを倒れないよう洗面所に置き、玄関に向かう。
 
「はい」

 扉越しに返事をする。ワンテンポ遅れて、男の声が聞こえた。
 
「今、取られている新聞ってありますか?」
「いえ」
「取られるご予定とかはあったり?」
「いえ、それも」
「そうですか。また機会があったらお願いします」

 男が立ち去る。階段を下りていくのを見送り、柊ナナは男が新聞の勧誘ではないことを確信する。
 
「ナナしゃん......?」

 扉を閉める音で、ミチルが目を覚ました。
 いつから寝ていたのか分からないが、まだ眠そうに目をこすっている。

 この生活が、いつまでも続くだろうか。
 続けば、それ以外は何も必要ない。
 不安は伝染する。特に、犬飼ミチルはそういう人の表情に人一倍敏感であることを、柊ナナはよく知っていた。
 柊ナナは少しだけ屈んで、胸元にミチルを抱き寄せる。
 
「大丈夫です。さっきのは、水素水の押し売りでした」

ちゃんとしたキーボードが欲しいのですがコロナで収入が吹っ飛びました