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毎日ナナしゃん ~After Story~ (117)

※この記事は重大なネタバレを含みません




 倉庫の床からは、金属製の梯子が伸びていた。
 最近使われた痕跡は無い。ジンなら、こんなものを使わずとも浮遊能力なり瞬間移動なりで簡単に中に侵入できるからだろう。その内のどれも持たない私達三人は、梯子を下りるしか無い。
 
「俺が一番先に降りよう。もし罠があっても死なないし、万が一お前さん方がうっかり足を滑らせて落ちてきても受け止められるからな」
「あはは……」

 そうして、キョウヤを先頭にして梯子を下りる。
 深さはさほどでもない。せいぜい5、6メートルといったところだろうか。最後の二段ほどをジャンプして降りると、モエも2メートルほどの高さから飛び降りてきた。
 
「どいて、どいてくださいですー!」
「……モエちゃん、危ないですよ」
「モエは軟体能力を持っているので平気です!」
「軟体能力? それがお前さんの能力なのか?」

 ああそうだ、キョウヤはモエの能力を知らないのだ。
 最も、モエは私と同じで、いわゆる能力者ではないのだが――モエは得意げな顔で、ぐにゃりと身体を曲げ、頭を足の間から突き出して見せた。
 
「あれか、……びっくり人間レベルか。モグオ達の仲間に入れてもらった方がいいんじゃないか?」
「なんだかすごく馬鹿にされた気分です!」

 そんなことを言ったらキョウヤくんだってびっくり人間じゃないですかー、などと言いながらぎゃあぎゃあと騒ぐモエを余所に、私は周囲を確認する。
 コンクリートで固められた空間。いつか、ジンの能力で連れられた場所で間違いない。以前は気付かなかったが、今私達がやってきた場所の天井は、鍵の外れた扉のようにぱくりと割れている。
 このような密閉された地下室は通常、勝手には空気が循環しない。だが、天井の穴の存在とは関係ない方向に、風の流れを感じた。恐らく、換気装置があるのだろう。
 この施設の維持にもしジンの能力が関係しているなら、と少々良くない想像をしたが、どうやら杞憂だったようである。
 
「行きましょう、キョウヤさん、モエちゃん。皆が待っています」



つづく

ちゃんとしたキーボードが欲しいのですがコロナで収入が吹っ飛びました