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毎日ナナしゃん ~After Story~ (103)

※この記事は重大なネタバレを含みません




 ジンのアジト――彼は“別荘”と呼ぶが――に戻って数日。これといって練るような作戦もなく、私達はぼんやりと過ごしていた。
 
「ナナ、モエくん、そろそろ昼食にしよう。こちらに来たまえ」

 食事はほとんどがインスタント食品。栄養だなんだと気にするようなたちでもないが、一応ジンがサプリメントなんかを用意してくれているのでそこのところは心配なさそうである。まあ、電気と水は使えているので食材さえあれば何か調理できないこともなさそうだが、サプリメントや食材を手に入れることができるとしてあえてサプリメントを選ぶのは、ジンらしいといえばジンらしい。
 
 ――いや、案外ジンは料理をしている姿も似合うのではないか?
 どういう訳かは分からないが、エプロンをつけながらうきうきとフライパンを振るジンの姿が簡単に思い浮かんだ。これは……幻覚能力……?
 
「……しぇんぱい、時間を持て余しすぎて頭がおかしくなっちゃったです?」
「何でもないです。行きましょう」

 その日の昼食は、袋麺とサプリメント6錠だった。

「そう言えばジンしぇんぱい、次はいつ攻め込むです? モエは準備ばっちりです」
「結構なことだね。でも、こちらから計画するまでもなく――噂をすれば、ほら」

 ジンが指差すのは、建物の入り口。ドアの隙間に、封筒のようなものが差し込まれてあった。
 
「モエがとってくるです!」

 考えてみれば、ナナオや鶴岡が私達の居場所を突き止めていても不思議ではない。急に襲ってくる可能性も考慮して警戒はしていたが、やはり私を弄ぶことが目的ならば、それなりの舞台も必要といったところだろう。
 ――そう、きっとその気になれば、ナナオ達は今すぐにでも私を殺しに来ることができるのだ。

「持ってきたです! 開けていいですか?」
「……ええ」

 モエがばりばりと封筒を破く。中に入っていたのは、一枚の便箋。
 
「ふむふむ、“明日の夜、○○アパートの201号室で待っています”……鶴岡さんたちが待っているということでしょうか、でも、どうしてアパートに……しぇんぱい? どうしたんですか?」

 その便箋を見て――いや、その封筒を見た瞬間から、予感はあった。
 モエは天真爛漫な性格をしているが、粗暴ではない。モエが封筒を破く前にきちんとのり付けしてある口を剥がそうとして、諦めたことを私は見逃さなかった。
 ナナオや鶴岡があれを用意したとして、たかだか封筒の口に、それほど気を遣うだろうか? ――否。
 
 便箋に書かれた、たった一行。
 その筆跡に、見覚えがあった。
 
「……ミチルちゃん?」




つづく

ちゃんとしたキーボードが欲しいのですがコロナで収入が吹っ飛びました