ゾンビランドナナ #026

 それからしばらくの間、何事も無く。
 柊ナナは派遣のバイトに向かい、日銭を稼ぎ、時々起きてはテレビなんかを見ているミチルと話をし、一緒のベッドに潜る。
 そんな生活をしていた。
 
 コハルから預かったケータイには充電器が無かった。それくらい自分で用意しろということだろうか。いま使っているものとは違う物だったのでわざわざ買いに行き、コンセントに差しっぱなしにしているが、未だ連絡は一度も来ない。あくまでコハルは柊ナナからの連絡を待っており、自分からアクションを起こす気は無いのかも知れない。
 
 ベッドに潜ったミチルの髪を撫でる。
 
「......ミチルちゃん、スマホとか欲しくないですか?」
「どうしてですか?」
「私がいない間、退屈かと思って」
「ほとんど寝ちゃってるので......それに、お外にも出ませんし」

 暗くて表情は見えないが、きっとミチルは作り笑いをしたのだろう。
 柊ナナは、ぎゅっとミチルを抱き寄せた。
 
 ――その時、何者かがアパートの階段を上ってくる音がした。
 アパートの管理人か、何か用事のある近所の住民? 違う。
 これは、訓練された同業者の足音。
 離れていてもそれが感じられないほど、暗殺者としての柊ナナは衰えてはいなかった。
 
「......ナナしゃん、どうかしましたか?」

 恐らく、ミチルには聞こえてすらいないのだろう。
 それはそれで良いと思った。柊ナナはミチルを不安にさせないようもう一度髪を撫で、布団から起き上がる。
 
「いえ。近くで迷い猫の声が聞こえたので、少し様子を見てきますね」

ちゃんとしたキーボードが欲しいのですがコロナで収入が吹っ飛びました