ゾンビランドナナ #013

 コンビニに着く。
 
「あ、お疲れ様ッス」
「お疲れ様です」

 今日は店長はいない。バイトの大学生と二人だ。
 
「掃除と品出しも終わってるんで。先に休憩頂きますね」
「はい」

 柊ナナは営業スマイルで返事をする。バイトの大学生は振り向きもせず煙草を咥えてバックヤードへ戻っていった。

「さて……」

 特にすることもない。朝のピークの時間はとうに過ぎ、客足も落ち着いている。店内には誰もいない。
 掃除なんかはバイトの彼が先に済ませてくれていたようだし、客がいないので商品の前出しも必要ない。
 いよいよやることがない。レジの下でスマホなんかを触っていても怒られることはないが――
 
 その時、ライダージャケットに黒いヘルメットを被った男――いや女が一人、入店する。
 咄嗟に身構える。実際に遭遇したことはなかったが、ヘルメットを被ったまま入店する人間は強盗であると相場が決まっている。皆が皆というわけではないが、普通に考えてただ買い物をするだけの人間がヘルメットで顔を隠したまま入店するのはナンセンスである。
 柊ナナは女を横目でちらちらと確認しながら、SOSボタンに指を添える。
 
 ――がしかし。女はレジ前を素通りし、おにぎりや弁当が置かれているコーナーへ足を運んだ。
 ヘルメットを外すのが億劫なだけの、普通に弁当なんかを買いに来ただけの人なのか? ボタンから指を離す。そしてホットフードのフライドチキンの数が少ないことに気づき、冷凍庫を開けようとした時。
 
 女がレジの前に立っていた。鮭のおにぎり二個と、スポーツ飲料。バーコードを読み、千円札を受け取る。そうして釣り銭を返そうとした時。
 入れ違いに、一枚の紙切れを袖の中に入れられる。
 
「お客様、何か、」

 呼び止める間もなく、女は店を出る。バイクのエンジンがかかる音。
 柊ナナは折りたたまれた紙切れを広げる。
 
 “私はお前の正体を知っている”
 
 レジにロックをかけ、店を飛び出す。
 動悸が早まる。自動ドアの縁に手をつく。
 女は走り去った後だった。

ちゃんとしたキーボードが欲しいのですがコロナで収入が吹っ飛びました