ゾンビランドナナ #003

 風呂の湯が流れる音。
 しばらくして、ミチルが部屋に戻ってくる。
 
 ちらとテレビの上にかけた時計に目をやる。時刻は九時。残業がある日だとこれだけでもう日付が変わっているところだが、今日はまだそれなりに余裕がある。
 
「隣いいですか?」

 こくり、とミチルが頷く。何をするわけでもない。本当なら一緒にゲームができれば良いのだが、一方的にボコボコにされるのは相手にも申し訳ない。
 故に、コントローラーは一つしかない。だが、こうして何をするでもなくだらだらと時計の針を眺める時間が、柊ナナにとってそれなりの幸せであった。
 
 隣にはまるでゾンビに見えないゾンビ少女が画面に表示されたキャラの動きに合わせてぴょこぴょこと身体を揺らしている。当初、ミチルがテレビを欲しがった時は某国営放送の集金人を追い返す大義名分を失うことに少々躊躇ったものの、こうしているとやはり買って良かったと思える。
 
 ピンポーン
 
 インターホンが鳴った。
 誰だ、こんな時間に。
 
 立ち上がろうとしたミチルを手で制し、インターホンに向かう。
 
「どちら様ですか?」
「某国営放送の集金です」
「うちにはテレビありませんので(ガチャ」

 テレビの前に戻る。
 ミチルがコントローラーを置いてコップの水を飲みながらこちらを見た。
 
「どなたでしたか?」
「水素水の押し売りでした」

ちゃんとしたキーボードが欲しいのですがコロナで収入が吹っ飛びました