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毎日ナナしゃん ~After Story~ (96)

※この記事は重大なネタバレを含みません



 私に心を読む能力は無い。
 中島ナナオも鶴岡も、真壁モエも橘ジンも知っている事実。私は無能力者であり、無能だった。
 兎に角、このゲームを何とかクリアしないことには話にならない。間違えれば何かがあるといった。その内容は分からないが、あまり嬉しくないものであることは間違いないだろう。
 一方で、中島ナナオの行動理念が鶴岡と同じだと仮定すると、無意味な誤魔化しは使わないだろう。正解すれば、それでクリアーという訳だ。

 目の前に提示されたのは、二枚の風景画。一枚は春に撮影されたもので、桜の散る山道を一両編成の電車が走り抜けている。
 もう一枚は、ある小屋の写真。夜に撮影されたものだ。辺りは暗く、小屋の中で灯りが点っているのが確認できる。
 この内どちらかを選べ、と。仕切り越しにモエの方を見ると、既にどちらか片方を選んだようだった。
 ふむ、と私は顎に手を当てて考える。直感的に考えると、モエが選びそうなのは電車の写真だ。乗り物が好きなのはいつか聞いたことがあったし、私がそれを把握している、ということをモエが把握していても良いはずだ。
 どの写真を選んだかは当然確認できないが、特に考え込むような様子は無かった。だとすれば、答えは明白なのではないか? 選択に時間をかけなかったことこそが、彼女からのメッセージではないのか?
 迷っていても仕方がない。ジンはきっともうどうにかして脱出しているだろう。私が遅れをとるわけにはいかない。
 
「モエちゃんが選んだのは――」

 私は指をさそうとする。その時、思った。
 写真は二枚しかなかった。
 ナナオは今、私への復讐、つまり私への憎悪故に、こんな訳のわからない空間に私を閉じ込め、ゲームをしているはずだ。
 だとすれば、簡単にクリアされてはならない。

 では何故、写真は二枚しかない?
 もし私が思考を放棄し当てずっぽうで指を指しても、二回に一回は正解してしまう。
 果たして、わざわざこんな舞台を用意して、そんな下らないゲームをするだろうか?
 
 私は考える。モエも馬鹿ではない。彼女とて、鶴岡から訓練を受けたのだ。
 きっとすぐ、私と同じ考えに辿り着くはずだ。
 
「中島さん。分かりました」
『そうかい? まあ言ってごらんよ。多分当たらないと思うけどね』



つづく

ちゃんとしたキーボードが欲しいのですがコロナで収入が吹っ飛びました