ゾンビランドナナ #027

「三島コハルの仲間か?」

 階段の下に向かって、柊ナナはそう声をかける。
 
 ――返事は無い。ブラックライトを点けると、ぱっと地面に足跡が浮かび上がる。建物の死角になっている場所に、フードを被った男が一人。
 コハルは柊ナナに危害を加えたいという訳ではない。とすれば、少なくともこの男は三島コハルや小野寺キョウヤの仲間ではないのだろう。
 
 柊ナナはポケットに手をやる。ナイフ、フォーク、プラスドライバー。それに、化粧水の瓶に入れた催涙ガス。万が一職質に逢っても乗り切れるものを揃えている。
 恐らく、以前コインパーキングで片目を潰した男と同じ組織の人間だろう。確証はないが、同じ靴跡が地面に残っている。それに、元暗殺者とはいえたかだか一人の人間に過ぎない柊ナナなる人物を狙う組織が二つもあってたまるものか。
 無論、その考えには希望的観測が含まれている。が、幸いにも予想は大きく外れなかった。
 
「交渉がしたい」
「所属は?」
「お前がいた場所――と言えば伝わるだろうか」

 一つしかなかった。
 柊ナナはドライバーを握りしめたまま、自分より少し背の高い男に近づく。
 
「フードを取れ」
「仕方ないね」

 何の冗談か、男は理科室に置いてあるようなゴーグルをつけていた。以前、仲間が目を潰されたからだろうか。
 それでも柊ナナにとって、加減はしていたのだ。本当に自分の情報を漏らしたくなければ、殺しはしなくとも両目を潰せばよかったのだ。
 
「怖いな。できれば、ポケットの中のものから手を離して欲しいんだけど」

 ゴーグルを取る。
 薄々は気付いていた。男は、柊ナナのよく知る人物。
 
 中島ナナオだった。

ちゃんとしたキーボードが欲しいのですがコロナで収入が吹っ飛びました