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毎日ナナしゃん ~After Story~ (68)

※この記事は重大なネタバレを含みません




 ジンに見送られ、島の女子寮に戻ってきた。
 外は日が登っておらず、暗い。夜。時間の感覚はとうに消えていた。ずいぶん長い一日だったようにも感じるし、一瞬の間だったようにも感じる。
 そう思えてしまうのは、今日という日に、本質的に私が何も成し遂げられていないからだ。そして、そんな日は大抵、時間は私が思うよりもずっと早く過ぎている。
 
 授業がなくてよかった。教室に行く必要があれば説明しなければならないことが山ほどあるし、こんな自分の顔を晒したいとも思えなかった。
 
 ミチルは無事に家に帰り着いただろうか。家の前までは、ジンが送ってくれるそうだが。未だ彼が信用に足る人間なのかは図りかねていたが、彼の協力なしでは先が無いこともまた事実である。

 例えば、鶴岡や中島ナナオへの対抗策。
 無能力者の私は、悔しいが彼らに対抗する手段など持ち合わせていない。クラスのみんなに協力を仰ぐことも考えたが、ただでさえ私のリーダーとしての訴求力は以前より落ちている。とすれば最初からジンを頼った方が確実なのではないか。
 ……いや、それはジンを信用しきってしまうことと同義だ。その考えは、果たして安全だと言えるのか?

 ――考えがまとまらない。身に覚えがある以上に、疲れが溜まっていた。
 慌てることはない。既に、ミチルは安全な本土に移り、鶴岡の毒牙に狙われることもないのだから。

 私は服も着替えず、ベッドに横たわった。
 身体を預ける。思考が枕に沈み込んでゆく。
 まだ新しい枕。私はぎゅっと抱き締める。
 笑顔が浮かんだ。あなたの笑顔。
 もし今、客観的に自分を見たとすれば、私はきっと笑うだろう。
 これではまるで、恋する乙女のようではないか、と。
 あなたの手を離したのは、私。それでもどうか、笑わずに聞いて欲しい。
 
 手を離したのは、あなたのことが誰よりも大切だから。
 だけど、こんなにも寒い夜は、あなたのことが恋しくてたまらない。



つづく

ちゃんとしたキーボードが欲しいのですがコロナで収入が吹っ飛びました