ゾンビランドナナ #016

 玄関で靴を脱ぐ。コハルはバイクに乗るのに適したライダーシューズを履いていた。この玄関に、柊ナナ以外の靴を置くのは初めてのことだ。
 
「ここが......」
「ここはとはなんだ」
「ミチルちゃんとの愛の巣というわけね」
「......」

 ミチルは先程カメラで確認したときと変わらずソファの上で眠っていた。柊ナナが帰ってくると必ずといっていいほどすぐに起きるのに、珍しい。
 後ろからコハルが顔を覗かせる。
 
「ミチルちゃんは?」
「眠っている」
「そうなのね......なるほど」
「?」
「何でもないわ」

 コハルはリビングの扉を閉める。
 
「わざわざ起こすのも何だし、ここで話しましょう」
「......ミチルは聞かない方がいい話なのか?」
「うーん、そういう訳でもないけど」

 そう言ってコハルは、勝手知った様子で冷蔵庫を開ける。
 
「おい」

 見られて困る物もない。が、あまり良い気分はしない。
 
「......呆れた。こんなことだろうと思ったけど。刻みネギ、チューブわさび、山椒に七味唐辛子って、食生活が窺えるわ」
「非正規雇用の中年みたいで悪かったな」
「そこまでは言ってないわ。全部社会が悪いとか言い出しそうな顔で睨まないでよ」

 やれやれといった素振りをしながらコハルは靴を履く。
 
「話があるんじゃなかったのか?」
「帰らないわよ。買い出し。一緒に行く?」
「行かない。あと玄関の塗料踏むなよ」
「うるさいわね」

ちゃんとしたキーボードが欲しいのですがコロナで収入が吹っ飛びました