ゾンビランドナナ #005

 暗殺者として、それなりに色々なことを学んできた。
 それなりに戦うこともできる。ただ、それが活かせる仕事など殺し屋以外にありはしないし、重い荷物を持つだけの力もなかった。
 
「いらっしゃいませー」

 派遣の仕事は毎日同じ所に行くとは限らない。今日は、アパートから一駅離れたところにあるコンビニ。オペレーションはどこも似たり寄ったりだ。
 
「お弁当温めますか?」
「お箸いりません」
「お弁当温めますか?」
「あ、はい」

 誰にでもできる仕事と言うには、他の店員に失礼だろう。だが、暗殺者としての職務を離れた柊ナナにとって、この派遣の仕事は身の丈を測る物差しのようなものだった。
 
「やあ柊さん、今日も助かるよ」
「あ、はい。こちらこそ」

 注文伝票を片手に、もう片方の手で眠そうな瞼を擦る。柊ナナよりも僅かに身長の高い、この店の店長だ。

「また新しく雇ったバイトが辞めちゃってね」
「はあ」
「柊さんが毎日来てくれたら、助かるんだけどなあ……」
「……」

 先週も同じ話を聞いた。気がする。
 だが、店長にとって憂慮すべきことであっても、柊ナナにとってはそれほどでもない。毎日同じ店でバイトをするのも悪くないが、日雇いの派遣はそれなりに給料がよかった。
 
「……考えておきます」
「よろしく頼むよ。タバコ行ってくる」

 バックヤードに戻る店長。
 入店ベルがなっていないことを気にかけながら、手帳を開く。
 
 ゾンビであるミチルは働けない。食費がかからないのでそれほど負担でもない。だが、心配はかけたくなかった。
 本当であれば、もっときちんとした会社に雇ってもらうのが良いのだろう。
 だが、中途半端な道を歩いてきた今、大した学歴も人脈もない。
 
 ため息を一つつく。
 キラキラした未来なんて、与えられなかった。
 仕事が身の丈を示すならば、最低賃金で働くのも悪くない気がした。
 そして、それでも守るものがあることは、幸せなことであるようにも思えた。

ちゃんとしたキーボードが欲しいのですがコロナで収入が吹っ飛びました