ゾンビランドナナ #022

「いらっしゃいませー」

 小さな喫茶店だ。二人がけのテーブルとカウンター席。ぴかぴかに磨かれた焙煎機、壁に掛けられた名画のレプリカ、古いレコードから流れるジャズ・ミュージック。良い雰囲気の店である。
 
「ブレンドを二つ」
「はい」

 コハルはテーブル席の窓側に腰掛けると、おしぼりを持ってきたウェイトレスの少女に声をかけた。高校生......中学生のアルバイトだろうか? いや、中学生はアルバイトができない。家の手伝いか何かだろうか?
 ――そんなことはどうでもいい。

「ここなら大丈夫よ」
「人の目がないという意味か?」
「まあ......無いことは無いけど。大丈夫よ」

 よく分からないが、コハルがそう言うならまあそうなんだろう。
 
「お待たせしました」

 ほどなくして、先程の少女がコーヒーの入ったカップを持ってくる。やけに早い。カウンターの奥に目をやると、紺のベストを身につけた男がコーヒーカップを磨いていた。あの男が店主だろうか。
 
「ごゆっくり」

 コーヒーに口をつける。美味しくもなく、美味しくなくもない味だった。
 
「この間、柊の家に不審者が来たでしょう」

 コハルがコーヒーカップを置く。もう飲み干してしまったようだ。
 柊ナナはまだ半分以上残ったカップを皿の上に戻し、ミルクを継ぎ足した。
 
「それが?」
「彼の――彼らの目的は知っている?」
「ミチルちゃんですか?」
「いいえ」

 何だと? あの男は脅して帰した。ただの空き巣のようなものではなく組織的な動きであることは察していたが――
 
「柊、よく聞いて。あの男の目的は、ミチルちゃんではなく柊なのよ」

ちゃんとしたキーボードが欲しいのですがコロナで収入が吹っ飛びました