ゾンビランドナナ #014
バイトの大学生と休憩時間を代わり、バックヤード。
スマホのアプリを開き、VPN*経由で自宅のネットワークに接続。部屋の各所に設置した監視カメラを確認する。
飲みかけのコップが机の上に一つ。ミチルはソファで眠っている。ミチルは基本的に柊ナナが自宅にいないときは眠っているが、流石に人が入ってくるような物音がすれば起きる。ということは、まだ家には誰も入っていないと考えられる。
六十四倍速で巻き戻す。ミチルは時々起きては寝返りを打ち、時々タオルケットを持って移動して眠る場所を変えている。何かに反応している様子は無い。リビング、玄関、浴室と順にカメラの視点を移動する。玄関からはもちろん、窓から侵入された様子は無い。そのまま巻き戻していくと、柊ナナが玄関から外に出る様子が見えた。
接続を解除する。
扉には警報システムがついている。仮に鍵を開けられなかったとしても、開けようと試行した時点で警告が入るようになっている。だが、ミチルに何らかの危害を加えるつもりなら、どう考えても柊ナナが外に出ている時間を狙うのが良い。
ただのハッタリか? それとも――
およそ三時間後。店長の置いていった印鑑をタイムカードに押し、店を出る。タイムカードの写真を撮る。柊ナナは歩く。
いつもと違う道。
裏路地に入る。黒猫と目が合い、逃げてゆく。
後ろから肩を掴まれる。
右足を軸に振り向く。刃を出していたまま構えていたカッターナイフを突きつける。
そこにいたのは、先ほど柊ナナに紙切れを渡したヘルメットの女。
「あら、怖い怖い」
「何かご用ですか?」
「偶然、こんな物を見つけてね?」
女はジャケットの内ポケットから一通の封筒を取り出し、ヘルメットを外す。
“出頭要請”
柊ナナの顔が引きつる。
「それは......」
「さっき、あなたの家のポストに入れられているのを見たのよ。だけど、幸いなことに私はあなたの敵じゃない」
女は封筒を差し出す。柊ナナがそれをつかみ取り、それでなお手は差し出したままだった。
柊ナナは、彼女のことを知っていた。それは、島にいた頃、最も警戒していた人物の一人。
「......三島コハル」
「私が協力者になってあげるわ。もちろん、あなたたちさえ良ければね」
*仮想専用線。ネットワーク上に存在する特定の環境までの通信を暗号化するもの
ちゃんとしたキーボードが欲しいのですがコロナで収入が吹っ飛びました