ゾンビランドナナ #019
味はそこまで悪くなかった。
「で、本題なんだけど」
「うん?」
「ミチルちゃんを私達で預からせて欲しいと思っているの」
「......私達、と言うと」
私達、と言うことは組織的な何かなのか。どのみち柊ナナはミチルを引き渡すつもりはない。今の生活が不安定で危険なものであることは百も承知だが、ミチルがいなければ何の意味も無い。
だが、そんなことはコハルも承知である。そもそも、家から一歩も外に出ていないミチルの存在を知られている。他に強力な能力者があるのか。果たして――
「小野寺君よ」
「......キョウヤさんが?」
「ええ。実は、さっきからずっと外の車で待機しているわ。いつでも出られるように」
島を出てから、クラスの皆がどうなったかは知らない。知る必要もないし、無能力者である柊ナナにはそれほどのリスクを冒してまで知る意味もないからだ。
だが、気にならなかったかと言えば嘘になる。何故か事情を聞いていてすぐに島から出ることに納得してくれた三島コハル。そして、幾度となく相対した小野寺キョウヤ。
「キョウヤさんは――島を出てからは何を?」
「心理療法士をしているわ。彼、賢いのね」
......意外である。彼の性格からすれば、探偵や弁護士などと言われた方がしっくりくる。それが、心理療法士だと?
「事情は分かりました。私とミチルちゃんのことを気遣ってのことだということも分かります。でも、引き渡すことはできません」
「そう。まあ、そう言うと思ったわ」
そう言ってコハルは懐からナイフを取り出す。柊ナナは咄嗟に身構える。
「ミチルちゃんは奥の部屋にいるのよね」
「ああ。何度もそう言っている」
「日を改めるわ。起こすと悪いものね」
コハルはナイフをしまう。ビールの缶をもう一本開け、手を振りながら部屋を出ていった。
ちゃんとしたキーボードが欲しいのですがコロナで収入が吹っ飛びました