見出し画像

毎日ナナしゃん ~After Story~ (128)

※この記事は重大なネタバレを含みません




「ねえ柊」

 振り返る。世界が紅く染まる。
 幻覚? いいや、これは現実。
 ただ、その瞬間、確かに私達二人は、たった二人だった。

「私と、どこか遠くへ行かない?」
「二人で?」
「そう、二人で」

 コハルが、何の用もなく私を呼び出すとは思えなかった。
 その、本当の要件がこれか? いいや。

「真の幸福に至るのであれば、それまでの悲しみはエピソードに過ぎない」
「……誰かの詩か?」
「さあね」

 私には分かっていた。コハルは、私を試しているのだ。
 
 幼い頃、苦汁を飲み、辛酸を舐めて過ごしたのは、私もコハルも同じだ。
 だから、私達二人なのだ。
 きっと誰にも理解されない。ただ、私には理解できてしまうのだ。
 
 ミチルや、他の生徒達を救う覚悟はあるのか。
 救ったところで、私自身に未来は無い。
 私の罪が、消えることはないのだから。
 
「それでも、やめるわけにはいかない」
「みんな、柊のことを責めるかもしれない」
「構わない。私は、それだけのことをしてきた」

 日が沈む。気付くと、屋上には私達二人しか居なかった。無意識のうちにコハルが能力を使ったのか。
 いずれにせよ、無能力者の私には計り知れない。
 
 目が合った。正面から向き合う。コハルの瞳は、澄んだ藍色。
 先に目を逸らしたのは、コハルだった。
 
「いいわ。帰りましょう」
「……いいのか? てっきりもっと高い菓子やアクセサリーなんかを要求されるものだと――」

 そう言いかけた時、コハルが人差し指で私の唇に触れた。

「鈍感な女の子はモテないわよ。言ったでしょう? “デート”だって」



つづく

ちゃんとしたキーボードが欲しいのですがコロナで収入が吹っ飛びました