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麻疹は怖い

少し前のやらぽん塾長さまの記事で、現在麻疹が流行っていることを知りました。

やらぽん様の記事を拝読して思い出されたのが、文久2年の麻疹流行。
そう、「鬼と天狗」のスタート場面ですが、この年は二本松藩では700人もの死者が出た麻疹流行の年でした。この時の小話のタイトルが「流行り病」となっているのも、そのためです。

舞台は二本松藩ですが、実は水戸藩でも麻疹が流行。さらに、「青天を衝け」では、渋沢栄一がこの病で息子を亡くしていますし(舞台は埼玉)、さらには、津軽藩でも流行したのが確認できています。
これらの情報を統合すると、東日本の広域に渡って流行したのではないか……というのが、私の推測。
それだけ、感染力が強く怖い病気だということです。

麻しんウイルスの感染経路は、空気感染や飛沫感染、接触感染など。感染経路、オールスターじゃないですか……。マスクなども、無意味なわけで。
免疫を持っていない人が感染するとほぼ100%発症しますが、一度感染して発症すると、一生免疫が持続すると言われているそうです。

麻疹に感染すると、肺炎や中耳炎などの合併症も起きやすくなり、患者1,000人に1人の割合で、脳炎が発症するそう。
たとえ先進国在住の人であっても、感染者比0.1%の割合で死亡するといいますから、現代でも厄介な病気だと言えるでしょう。

気になって調べてみたところ、どうも東海~関西の方で、発生しているようですね。

画像出典:https://www.niid.go.jp/niid//images/idsc/disease/measles/2024pdf/meas24-10.pdf

さらに怖いのが、20代の若い人たちを中心に、じわじわと感染が広がりつつあること。
日本はWHO(世界保健機関)から「麻疹排除地域」に指定されているそうですが、伝染力の強いウイルス。油断はできません。


幕末の麻疹

現代でも怖い「麻疹」。江戸時代など、医療が不十分だった時代には、なおさら「死の病」として認識されていたことでしょう。
ところで、「鬼と天狗」のリサーチ中に、少し興味深い資料に当たりました。

この時代、割と迷信と病はセットで考えられるのですが、麻疹の場合、めっちゃ禁止事項が多いんです。

たとえば、こんなの。

出典:岩代町史2

要するに、

  1. 麻疹が完治して五十日が過ぎたら、夫婦のコトをしても良い

  2. 二十日間は入浴禁止

  3. 麻疹が疑われる時は、水を飲んではいけない

ということ。
1はともかく、2・3については、現代人はとても耐えられないでしょうね^^;

この2,3の医学的根拠ですが、どうも、「麻疹を冷やすと内攻する」という俗諺があるようです。

「内攻って何ぞや?」と思い調べたところ、「病気が表面化せず、体の内部に広がること」だそう。
恐らく、この迷信から「水を飲んではいけない」という禁忌が生まれたのではないでしょうか。

さらに、「麻疹のときに食べてもいいもの」は、下記のものに限定されていました。
麻疹は、初春~初夏に流行ることが多いようですが、中には、そうとばかりも言えない季節の食べ物も入っていますね。
いずれにせよ、気の毒……。

二十日すぎまで禁忌のもの

さらに、罹患して完治してからも、食事制限は続きます。
まずは、二十日を過ぎるまで食べられないものは、こちら。

かんぷらいもというのは、福島の方言でじゃがいものことです。
貴重な主食になるのに……。

三十日すぎまで禁忌のもの

五十日すぎまで禁忌のもの

このあたりになると、いまいち基準が不明……。
きゅうりやまくわうりは、体を冷やすとだめ、ということなのでしょう。
柿もそうですよね。
ですが、「鮎」が良くて「山女魚」がだめなのは何故なのか。

百日すぎまで禁忌のもの

このあたりになると、わからない食べ物も増えてきます。
ゆすらは、多分「ユスラウメの実」。甘酸っぱくて美味しいのですが、だめなんでしょうね。
もしかしたら、あまり消化が良くないのかも……。

ゆすらうめ。

「こがらし」は、どうやら「豆腐百珍」に出てくる、きのこのオカラあえ?らしいです。
しびは、「クロマグロ」のことらしいのですが、西日本の方言のようですし、いまいち不明^^;

百日すぎても禁忌のもの

雉がだめなのは、何となくわかります。多分、これは本来「献上品」扱いなので、原則として、一般の人々の口には入れてはいけないものだったのでしょう。
「直違の紋~」では、剛介が仕留めた雉を持ち帰らせて夕餉のおかずにしたのですが、本来はだめなのかもしれません。

また、鹿児島などでは、江戸時代末期には、黒豚を食べていたと聞いたことがありますが、当地では基本的に獣肉は食べなかったと推測されます。
あとは、「殻貝」もだめ。これは、「貝毒」を警戒したのでしょうか……。
貝毒も、春~夏にかけて発生する中毒症状なんですよね。


「鬼と天狗」の「流行り病」では、こんな一文を載せました。

麻疹に罹ると、食べ物も大いに制限される。かたくりや葛、温麺うーめんなど病人食の定番というべきものを始め、白瓜や冬瓜、秋大根などごく限られた食べ物しか口に出来ないのだった。房事や湯を使うのが禁忌というのは納得できるが、高熱が出ているにも関わらず、水すら口に出来ないのは、誠に気の毒であった。

実際には、これよりも遥かに過酷な状況下で、耐えるしかなかったのでしょう。
そりゃあ、完治の前に栄養失調・脱水症状で死ぬわ!
……と、岩代町史を読みながら、心の中で突っ込んだものです^^;

現代人は医師の指示に従って

そんなわけで、現代人は怪しい症状が出たら、まずは病院に行って、適切な治療の指示を仰ぎましょう。

それにしても、麻疹の流行状況。
私自身は子供の頃にワクチン接種をされているので、まず大丈夫……のはずです。
そもそも、身近で麻疹に掛かった人を見たことがないんですよね。
「三日はしか」と言われる風疹も、やはり子供のときにやっていますし。

どうか皆様も、ご注意を!

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