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ガーシュウィンとラヴェル

数日前、ジョージ・ガーシュウィンの著作権をめぐるニュースを見かけました。

私自身も、何曲かガーシュウィンの曲を弾いたことがあるのですが、彼の生い立ちについてはきちんと調べたことがありませんでした。
ちょこっと発表会で弾くくらいであれば、そこまで深い解釈は必要ないですしね。

ただ、Wikipediaを当たって分かったのが、結構コンプレックスの塊だったのかもしれない……ということ。

・ユダヤ系ロシア移民の子供
・ニューヨークブルックリン育ち
・きちんと音楽学校で音楽理論を学んでいたわけではない

などなど。
私なんか、これだけで「苦難の多い人生だったんだろうなぁ」と思うのですが(38歳で脳腫瘍で夭逝というおまけつき)、それでもさまざまなコンプレックスを抱えつつ、真面目な人柄だったのだろうと想像できるのです。

特に、私が好きなのが下記のエピソード。
(Wikipediaより拝借しています)

モーリス・ラヴェルにも教えを請うたが、ラヴェルからは「あなたは既に一流のガーシュウィンなのだから、二流のラヴェルになる必要はないでしょう」と言われたという。さらにラヴェルはナディア・ブーランジェへの紹介状を書いたが、彼女は「ガーシュウィンには生まれながらの音楽的才能があり、その邪魔をしたくない」と弟子とすることを断ったという。

ラヴェルはラヴェルで当時すでに第一線で活躍し、今風に言えば超売れっ子の状態だったのでしょう。
多分、ガーシュウィンは根が真面目で「どこかでクラシックをきちんと学ばなければ」という思いで、ラヴェルの門を叩いたのだろうと思うんです。

でも、ラヴェルはガーシュウィンの才能を見抜き、弟子入りを断っています。


「あなたは既に一流のガーシュウィンなのだから、二流のラヴェルになる必要はないでしょう」

という言葉とともに。

ガーシュウィンの音楽的な技法については、当時も賛否両論真っ二つに割れたようですけれど、演奏側としては、クラシカルなパターンにはまらないタイプの作曲なので、結構難しいんです😅
楽典理論については私も入り口をかじっただけなので解説できませんが(苦笑)、コード進行がジャズの要素を含んでいるらしく、そういう意味では非常に厄介。
おまけに、(楽曲にもよりますけれど)かなりテクニカルな曲も多いですしね。

それでも、そういうガーシュウィンの才能を潰すことなく、「自分の真似をしたら二流・三流に成り下がる」と見抜き、弟子入りを断ったラヴェルも、さすがだと思うのです。

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ここからはIFの世界になりますけれど。
もしも、ラヴェルが嫉妬心の塊で他人を潰すことを何とも思わないタイプだったら、ガーシュウィンはどうなっていたんでしょうか。

きっと、あの膨大な作曲の数々も、名曲も。
ダメ出しされまくって、生まれてこなかったと思うんです。

そして、それがラヴェルの才能を担保することになったかというと。
それも違うでしょう。
嫉妬にまみれて相手を潰そうとしたところで、自分自身を高めることにはならないですし。
一時的に持ち上げられても、結局は自分の価値を高めるどころか、むしろ下げたと思うんです。

ラヴェルの楽曲もこれまた難しいのですが(苦笑)、ガーシュウィンとはまた別の魅力があり、当時の時流に媚びなかった人柄が伺えます。
ラヴェルは、本当にガーシュウィンの才能を買っていたからこそ、彼の弟子入りを断ったのでしょう。

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やはり、クリエイター同士って時には意見や見解が異なる場面も出てくるでしょう。
ですがそれをねじ伏せようとするのは、潰そうとする方にとっても、案外マイナスにしかならないのかもしれません。

ガーシュウィンとラヴェルの関係性を見ていると、そんな風に思わせられるのです。

ガーシュウィン:ラプソディー・イン・ブルー

ラヴェル:道化師の朝の歌


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