【長編小説】底辺JK vs 新米教師 #10
#10 一歩目
=主な登場人物=========
〇林 かれん:高校3年生。低学力と素行の悪さで底辺女子高に入学するも、優れた容姿と強気な性格、ずる賢さにより悪い意味で”高校の顔”とも呼ばれる存在になる。新しく担任となる新米教師田中を振り回すことに楽しみを見出す。
〇金村 乃々華:高校1年生。真面目な性格が、底辺女子高では逆に浮いている。
〇田中 拓海:新米教師。初の赴任先が地元で有名の底辺女子高となり、ハードな教師生活のスタートとなる。生徒に翻弄されながらも、理想の教師を目指し奮闘する。
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10-1 放課後の1年生教室
授業が終わり、1年生の教室に足を運んだ田中は、廊下から中の様子をうかがった。薄暗い教室には、帰り支度をしている生徒たちのざわめきが響いていた。その中に、金村の姿を見つける。
彼女の周りには数人の1年生の姿――そしてその中心に、かれんがいた。
「ほら、金村ちゃん。一回でいいから遊びに来なよ? みんなでプリ撮ったり、楽しいってば~。」
「先輩、私、そういうのは……。」
金村は嫌そうに顔を背けていたが、かれんはその様子を面白がるかのように微笑んでいた。
「えー、そんなに意地張らなくてもいいじゃん。ね、ほら、見てこれ!」
かれんはポケットから何かを取り出し、金村に見せつけた。それは派手なデザインのアクセサリーで、明らかに金村の雰囲気には似合わない代物だった。
「こういうの、金村ちゃんにも似合うと思うんだけどなー。」
クラスメイトたちがクスクスと笑い声をあげる。
その瞬間、田中は教室の中に踏み込んだ。
「林!」
田中の鋭い声が響き渡る。かれんが驚いて振り返った。
「先生、どうしたんですか? 1年生の教室にわざわざ来るなんてw。」
「どうしたもこうしたもないだろう。金村に何をしている?」
田中の問いかけに、かれんは肩をすくめて答えた。
「別に? 後輩にちょっとアドバイスしてただけですって。」
「そのアドバイスが金村を困らせているように見えるが。」
かれんは目を細め、挑戦的な笑みを浮かべる。
「先生、またそうやって私のことを悪者にしようとしてるんですか? 私はただ、金村ちゃんがもうちょっと学校生活を楽しめるように、って思ってるだけですよ。」
田中はかれんの言葉に呆れながらも、強い口調で言った。
「金村が嫌がっているなら、それは『アドバイス』じゃない。林、今すぐ帰りなさい。」
かれんは一瞬、田中をじっと睨んだ。しかし、数秒後にはまた笑顔を作り、取り巻きたちに声をかけた。
「はいはい、わかりましたよー。金村ちゃん、また今度ね♡」
そう言い残して、かれんたちは教室を後にした。
静かになった教室で、田中は金村に向き直った。
「大丈夫か?」
金村は小さく頷いたが、その表情には少し疲れが見えていた。
「すみません、先生。迷惑をかけてしまって……。」
「いや、君が謝ることじゃない。何かあったらすぐに言ってくれ。僕も君を守るから。」
金村は少し驚いたように田中を見つめ、それから微笑んだ。
「ありがとうございます。でも、私は大丈夫ですから。」
その真っ直ぐな言葉に、田中は少し安心しつつも、かれんの次の動きに対する警戒を強めた。
(かれんのことだから、これで終わるとは思えない。どうするつもりなんだ、あいつ……。)
田中の中には、不安とともに、金村を守り抜こうという決意が芽生えていた。
10-2 進展
放課後、金村乃々華は校門を出たところでかれんに声をかけられた。
「おーい、金村ちゃん!ちょっといい?」
「林先輩……どうしましたか?」
かれんはニコニコしながら金村の肩に手を置いた。
「ね、金村ちゃんって真面目だから、きっと勉強も頑張ってるんでしょ? 私もちょっと見習わないといけないなーと思ってさ。だから、一緒に勉強会しない?」
その言葉に、金村は少し驚いた表情を浮かべた。
「勉強会……ですか?」
「そうそう! でもさ、学校でやると固いし、つまんないじゃん? だから、ちょっと静かな場所でやろうよ。カフェとか?」
金村は一瞬考えたが、かれんが勉強をしたいという意外な提案に、少し心が動いた。
「…まぁ…そういうことなら…」
しかし、かれんが連れて行ったのはカフェではなく、派手なカラオケ店だった。入口を見た瞬間、金村の顔色が変わる。
「ここ、カフェじゃないですよね……?」
「あはは、ごめんごめん! カフェ満席でさー。で、ここなら個室だし集中できるかなーってw?」
かれんは軽い調子でそう言うと、金村の腕を引っ張って受付を済ませ、強引にカラオケルームへと連れて行った。
「でも……ここは勉強できる場所じゃないと思います。」
金村が戸惑いを見せる中、かれんはルームに入るなり荷物を放り投げ、リモコンを手に取った。
「まあまあ、そんなこと言わないで! とりあえず座ってよ。」
金村は仕方なく椅子に腰を下ろしたものの、明らかに不安そうな表情を浮かべていた。
「ほら、金村ちゃんが持ってるそれ、見せて?」
かれんはニヤニヤしながら金村の教科書を手に取り、パラパラと適当にめくった。
「うわー、こんなの全然わかんない! ね、金村ちゃん、これ教えてよ。」
金村は戸惑いながらも、真面目に解説を始めた。しかし、かれんはそれを全く聞いておらず、リモコンで曲を選び始める。
「ねーねー、せっかくだから1曲歌おうよ! 頭使ったら疲れるじゃん?」
「でも、勉強するって言って……。」
金村の抗議にもかかわらず、かれんは音量を上げてマイクを握りしめた。
「細かいことはいいの! とりあえず楽しもっ!」
金村は眉をひそめながらも、何も言い返せなかった。
(騙された……。)
しかし、ここで無理矢理帰るほどの勇気もなく、金村は苦い表情のままその場にとどまるしかなかった。
(先生に相談した方がいいのかな。でも、また迷惑かけちゃうし……。)
金村の中で、孤独感と戸惑いが膨らんでいくのを感じた。
一方で、かれんは得意げな笑顔を浮かべながら、金村が自分のペースに巻き込まれていくのを楽しんでいた。
(金村ちゃん、そんな真面目な顔してたら損だよ。もっと私たちのノリに慣れてもらわないとね。)
かれんの計画は、確実に前に進んでいた――
(この物語はフィクションです。実在する名前及び団体とは一切関係ありません。)