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情にほだされた研究者は、犯罪者の青年を救おうと試みる


青年はなぜ両親を殺したのか。
彼は捕まってからごく少数の人としか話さず、保護観察で釈放されるまでの 6年間、ほとんど口を開かず沈黙を貫いてきた。
知能が高く賢い彼は一体何を考えているのか。
両親を殺したとされる彼の精神状態はどうなっているのか。
そんな彼を解明しようと、一人の精神研究者の女性がチームを率いて、彼を四六時中観察する研究を始める。
家のあらゆる場所に監視カメラを仕掛け、公共の監視カメラにアクセスし、彼の行動を探る。
青年の足首に付けられた GPS装置で場所を追跡し、心拍数を図る。
彼の行動から人間性を割り出そうというのだ。
青年が犯罪を犯した理由を、精神的観点から解き明かそうという名目らしいけれど、実際のところそんなに心理学がどうのこうの、という場面は特に感じられなかった。
青年はサイコパスだと断定し、何か隙を見せたら即牢屋に返してやろうと機会を伺う汚職警察官と、青年を守ろうとさえする研究者。
この相反する立場の 2人が対峙しながら、青年の過去がじわじわと暴かれていく。

研究者の女性は精神科学の目線から青年を解析しようとしていたけれど、結局のところ、彼女は青年が無実であることを信じたかったのじゃないだろうか。
両親をベランダから突き落としたというセンセーショナルな事件に関わり、取り残された幼い女の子を引き取って育てていく中で、青年が無実であれば引き取りたかったのじゃなかろうか。
彼が両親から精神薬を投与され、密かに研究されていたという事実を知って、青年は被害者で、薬によって錯乱状態にあった。
だから殺人事件ももしかしたらただの事故だったかもしれない。
彼はサイコパスでも何でもなくて、ただの賢い一人の青年で、攻撃性を抑えるための実験をされていた可哀想な人間なのだ。
彼の正当性を認めてあげて、妹と一緒に暮らせるように取り計らってやりたい。
そんな個人的な希望を叶えるために、研究で本性を暴こうと便宜を図ったのではないだろうか。
自分と同じように世間に馴染めない気持ちがわかるからこそ自分が救ってあげたい、という正義感から。
ただ、それだけではなさそうだけれど。

結局青年はサイコパスだったのだろうか。
衝撃的なラストで幕が閉じられたのだけど、多分生き残ったのは青年だと思う。
彼は妹と一緒に静かに暮らしたかったはずだ。
ただそれだけを望んでいたことだろう。
彼はカメラで監視されているからこそ、あえて嘘の告白をすることで、司法からの追求がなくなると考えたのだろう。
自分に罪はないと知らしめ、警察も追わなくなることで自由になると踏んでいた。
しかし、すべてを見ていた妹は事件の真相を明かし、兄と一緒にいることを拒否してしまう。
青年としてはまさかの誤算であり、唯一つの希望が絶たれた今、外にいる必要もない。
彼は知能が高いことを忘れていた研究者は、青年が死を選ぶのなら一緒に死ぬことを覚悟したのだろう。
だが、彼女は突き落とされてしまった。
彼によって。
青年としては外界で生きる必要性がなくなった今、もう一度殺人を起こして逮捕され、終身刑として刑務所に入ったほうがマシだ、と思ったのだろう。
このまま自分一人逃げてしまったところで意味がない。
最愛の妹に拒否られてしまった以上、もう思い残すことはない、と決断したゆえの犯行だったような気がする。
青年は攻撃性が強く、他の人よりも抑制が効きづらかっただけで、サイコパスではない気がする。
サイコパスはもっと冷静で、感情に流されにくいと思う。
個人的に。

登場人物たちにしても、ドラマの話にしても、結構人間の嫌な部分を見せられる。
監視カメラで人の生活を覗き見ようとしたり、刑務所に送り返そうと暗躍する汚職警察官がいたり、寝取られた彼女を取り返そうとあの手この手の汚い手口で陥れようとしたり。
聖職者も表では神の名を口にしながら、裏ではお金のために悪の道に手を染めていたり。
青年のことが可哀想だな、不憫だなと思わせておきながら、賢いがゆえの策略だったり。
全体的に救いのないだラマだったという印象が強い。

それにしても、現場検証で考察された再現はまさにそのままだった。


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