人類の進化論から長距離走を読み解く
ランニングに関する記事や論文を読みあさっていたら、なかなか面白い論文を見つけました。長距離走が人類の進化にどのような役割を果たしてきたかという内容です。
Endurance running and the evolution of Homo.
基本的には二本足での移動となると歩行にばかり着目されますが、長距離を走る能力は人間に備わっている大切な能力の一つ。それを200万年前の化石が示唆しているというのはとても興味深いと感じました。
簡単な概要
二足歩行がチンパンジーと人類の分岐点と言われていますが、人類は四足歩行動物と比較してスプリント能力が低いため、ランニングは人類の進化に大きな役割をはたしていないと考えられています。
ところが骨格的な痕跡から判断していくと、長距離走において非常にすぐれたパフォーマンスを発揮していることが確認されました。
約200万年前に地球上を直立歩行していた現生人類の祖先とも言われる「Homo erectus(ホモ・エレクトス)」の化石の特徴から、長距離走が人体の形態の進化に貢献した可能性をひもといていきましょう。
論文の中では主に、
・エネルギー効率
・骨格の強度
・動的な安定性
・循環器系
の4つの項目について解説をしています。バイメカ的にどうやって動きを効率化していったのか、進化の過程をのぞき込むことでトレーニング指導にも役立つことがたくさん発見できます。
二本足での移動【歩行vs走行】
二本足で長距離を移動するための歩くと走る。まずはこの2つの動作の力学的な違いから解明していくと話しがわかりやすいです。どちらも長距離を移動するためには効率よくエネルギーを使う必要があるわけで、その効率化においてとっている戦略が異なります。
歩行動作
バイメカ的に歩行を見ていくと、
・両足で重心をコントロールしている周期
・片足で体を支えて前方に移動する周期
の2つに分けることができます。基本はこの2つがぐるぐる回って歩いているわけですね。
ここで見ておくべきポイントは重心の位置がどのように変化しているか。重心が最も低くなるポイントは両足を大きく前後に開いて少し前に重心を移動させたタイミング、逆に重心が最も高くなるポイントは片足に重心を乗せて足裏の真上に重心が乗ったタイミング。
この動きを倒立振り子といってこの重心の高低差によって運動エネルギー➡️位置エネルギー➡️運動エネルギーというエネルギーのやりとりをして効率的に前方に移動しています。
ランニング動作
では走っている時はどうかというと、
・片足で体を支えて前方に重心を移動する
・両足が地面から浮いている
という2つの周期の繰り返しです。歩行は両足が地面についているのに対して、ランニングでは両足が地面から浮いています。
では、重心はどう変化しているのか。ランニングでは、片足で支えている時に重心が最も低くなり、両足が地面から離れている時に重心が最も高くなります。ここが歩行との決定的な違いです。
これを可能にするのが人間の足に備わっているmass-spring mechanism(質量-バネ機構)。着地の前半部分では弾性エネルギーを蓄積して、後半の推進局面ではそのエネルギーを解放することで前方に進みます。このバネを効率的に使うために支持局面における膝の屈曲角度はランニングの方が大きくなっています。
ちなみに歩行の最適速度は1.3m/s(約4.7km/h)、ランニングに切り替わる時は2.3〜2.5m/s(8.3〜9km/h)になるようです。
論文の中では四足歩行やギャロッピングとの比較などもされていますが、ここでは割愛します。
今回は他にもこれらの文献から引用しています。
Influence of the windlass mechanism on arch-spring mechanics during dynamic foot arch deformation
Three-dimensional angular kinematics of the lumbar spine and pelvis during running
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