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好きな仕事と向き合う作法

立場上、恐縮ながら仕事について論じる機会が多々あります。若いスタッフと対峙する時はもちろんながら、キャリアのあるスタッフと目線を合わせる時でも、手前味噌ながら自前の仕事論を振りかざして嬉々として語ることがあります。ウキッ。

常日頃、いつも気にかけていることは【自身が好む側面で仕事と向き合えているかどうか】です。
私自身もそうですが、共に仕事をしてくれているスタッフたちや取引先の方々、友人や家族に対しても気になる時があります。

言葉にすると難解かもしれませんが、要するに「楽しく仕事をしてますか?」ということ。

これがなかなか一筋縄ではいかない。人によって捉え方は様々だから、時には楽しいだろうけれど時には苦しい。そんなもんだ。

仕事に対して人は一体どのような視座を持つべきか、いつも私自身も考えさせられ、勉強になることがたくさんあります。

今回はそんなお話をしたいと思います。


●ファンタジーとしての仕事観

「好きなことを仕事にする」

さて、一般論ではありますが、楽しく仕事をするためには"好きなことを仕事にしなきゃいけない"と思っている人が多いように感じています。これは間違いではありませんが、私にとってはやや高難度な仕事の選び方だと思っています。

もちろん仕事を選ぶ際に自身の好きなことや興味のあることを軸に判断するのは私も大賛成です。そもそも好きじゃないことに熱なんて入らないし、やっていてもおもしろくありません。

しかし、好きだと思ってやってみたら「なんか思っていたのと違う」「好きじゃなかった」など、そんな経験をした人は少なくないでしょう。
自身の"好き"とは一体何だったのだろうか、と焦燥感に打ちひしがれることもしばしばあるでしょう。

少し古いかもしれませんが、YouTubeなどのPRにも【好きを仕事に】なんてフレーズが採用されていたり、大手採用サイトには100%といっても言い過ぎでないぐらいこの字面が並びます。おそらく誰もが一度はこの言葉を目に、耳に、口にしたことがあるはず。

そんな誰もが夢を見たこの言葉は、宝くじに当たるような確率でのみ現実世界に存在する、まるでファンタジーのような言葉です。巡り巡って好きな仕事に出会うことはできそうですが、ピンポイントで狙って「これだ!」と好きなことが仕事になるケースは限りなくゼロに近いように思えます。

…と揶揄しながらも、私たちの周囲には"好きな仕事に出会う機会"がゴロゴロ転がっているのも事実です。そのように捉えることができれば、我々はとても自由になることができます。

これは解釈における技術的な要素もありますが、自身の人生、とりわけ仕事に関しての心周りを豊かにするためには必要不可欠な思考スキルです。

好きなことを仕事にする、というのはシンプルに見えてとても難しい。いや、もはやシンプルだからこそ難しい。だから私は"好きなことを仕事にする"のではなく、"仕事を好きになること"を提言しています。

これを論ずるにあたって、そもそも"仕事"とは何なのかを解き明かすことから始めたいと思います。


●仕事の定義を考える

大多数の方(当社関係者ではない)に「仕事とは何か?」という問いをすると「生活するために必要なこと」と答えると思います。

✔︎仕事=自分(の生活)のために行なうこと

という認識です。これはその通り、仕事の成果に応じた報酬があなたの暮らしの源泉となる給与/所得に変わる。あながち間違ってはいない考え方です。

次に「仕事は楽しいか?」という問いをすると「まぁ楽しいと言えば楽しいけどしんどいよね。でも、仕事だから(お給料もらっているから)仕方ないよね。」というフレーズが模範解答のように続きます。

✔︎仕事の楽しさ=どこからともなくやってくるモノ

という考え方に近いように思います。
仕事の定義付けを自分の目線で行うから、当事者のようで当事者でない、楽観的なようで悲観的であるような、なんとも言い難い思考回路に陥っています。

ここが"好きな仕事をできている感じがしない"という現象の大きな要因になっています。
そこで唐突ですが、私が正しい仕事の定義解釈だと捉えている内容をご紹介します。

仕事は趣味とは本質的に異なる。
自分以外の誰か(価値の受け手、すなわちお客)のためにやるのが仕事
アウトプットがすべて。客が評価して受け入れなければ仕事にはなりえない。

『すべては「好き嫌い」から始まる』 / 楠木建

✔︎仕事=誰か(お客様)のためにやること

という認識です。

お客様に評価していただいてはじめて、対価という報酬を得ることができます。営業や飲食業、小売業は言わずもがなですが、IT業界だって建設業界だってクライアント(=お客様)の満足がなければお金は動きません。
むしろ満足されなければクーリングオフされる世知辛い世の中。

つまり、仕事はいつだって誰かのお役に立つことなんです。結果的には自分のためになりますが、入口はあくまでもお客様目線。ここを間違えるといつまでたっても上手になれません。自分のためだけに行うことは趣味です。ここは明確に考え方を分ける必要があります。

さて、ここまで分解して整理できればあと一歩。仕事という言葉の定義付けプロセスを経て、目的もセットで見えてきました。

では、肝心の【好きを仕事に】という文脈をどのように迎え入れたら良いのでしょうか。誰かの好きを仕事にするということが、果たして自分の好きになり得るのでしょうか。

●"好きになる"というスーパーパワー

冒頭にあるように、好きなことを仕事にするのは難易度の高い行為です。自分の好きなことが誰か(=お客様)の好きにあたることを願って、コツコツ努力し続けることが一丁目一番地。音楽などの芸術の分野でよく見られることですが、"好きならばいつか報われる"という想いでひたすら突っ走る。もちろんそれが叶えば最高ですし、今、まさに努力している方々にはそれが大成することを祈っています。

しかし、仕事となるとそうはいかない。

お客様やクライアント様に認められず怒られることもあるし、自身にとっては好きでもない退屈な作業を強いられることもある。さらには、好きな業界に就職しても自身の好きを発揮するチャンスを得ないまま、人事異動や転職を迎えることもあります。

現実的には好きなことを仕事に選ぼうが選ばまいが、今取り組んでいる目の前のことを好きになることの方がよっぽど幸福であり、やり甲斐を得て自己成長もすると考えています。


私は幼い頃からスポーツをしていたのですが、なかなか上手くなれない自分を鼓舞するために、このフレーズを脳内に撒き散らかしまくっていました。

好きこそものの上手なれ

まだ知見が育っていなかった当時(たぶん中学生ぐらい)は、「好きなことを続けることで上手になっていくから諦めるな」という意味合いで理解していました。

これはこれで正しいと思うのですが、成長と共に言葉の多様な側面を見つけることができるようになり、やや味わい深く理解できるようになりました。そして、大人になってからこの言葉を振り返ると当時と今では認識が変わっていることに気付きました。

上手になりたかったら好きになるしかないんじゃない?

今ではそんなことを教えてくれている言葉のような気がします。

成長したい、成功したいという想いが強くなればなるほど焦りが生まれ、空回りして結果として上手に進めることができず、目の前にある仕事に嫌々取り組んでいる方も少なくありません。うまいこといかない現状を嘆いて、クサクサした気持ちに飲み込まれることもあります。
しかし、本当に心から成長がしたいなら好きになる努力を惜しんではなりません。さらには最初から好きなことをするだけでは不十分です。なぜならば、好きなことをするということが目的であれば、それはすでに好きなことをしている時点で叶っているのです。大切なのはその先にある、真の目的です。ここに焦点を合わせなければちっとも上手くなれません。

さらに仕事であれば尚更、上手く(=売上が増える=お客様に喜んでもらえる)いかなければ成り立ちません。
自身の取り組んでいることに何の影響力もなければ面白みも感じにくい。そのため、高い視座を設けて先の先の先ぐらいまで見通して考えたいと思います。

視座を高くするためには歴史から学べと教わりましたが、

之を知る者は、之を好む者に如かず
之を好む者は、之を楽しむ者に如かず

『論語』 / 孔子

まさかの孔子にまで振り返ることになりました。

こちらの言葉は"物事をよく知っている者でも好きなことをしている者には及ばない、そして、好きなことに満足する者は楽しむ者には及ばない"という意味のように捉えています。
好きこそものの上手なれの原型のような言葉です。
※最近調べました。

つまるところ、知る→好む→楽しむの順に上手になっていくんだぞ、いうこと。どこにも「好きなことをしろ」なんて書いてありません。むしろ"好き"という感情は楽しむための通過点、調味料に過ぎず、ここをゴールにしていてはその先にある楽しむという機会を失ってしまうことになりそうです。
とはいえ、孔子曰く、大切なことはやはり"好きかどうか"という一点に尽きます。仕事を楽しむためには、好きという過程を踏まなければどうしようもない。

だからこそ私は、好きになるという努力そのものが仕事を楽しむ魔法のスイッチになると考えています。


●類い稀ない努力の成果

では、目の前の仕事を好きになるためにはどのような価値観が必要なのでしょうか。

私は以下の3つが大切だと思っています。

①目的と目標を切り分けて考えること
②小さな成功&失敗体験を積み重ねること
③信頼できる人間関係を積み上げること

それぞれ見ていきましょう。


①目的と目標を切り分けて考えること

読んで字の如く、自身が仕事を通じて最終的に達成したい目的(大きい)と、その目的を達成するための目標(小さい)をしっかり分けて把握しておくことです。
ここが混ざってしまうと「何のためにやっているのか」がわからなくなります。

僭越ながら私の例を挙げると…

✔︎目的
=人々の暮らしを(精神的に)豊かにすることで社会に必要とされる自分(会社)でありたい

✔︎目標
=売上(お客様の評価)を上げる
=スタッフ(仲間)の価値観を揃える
=永く使える商品(手段)を取り扱う
=安売りしない(情緒)
…ここに挙げれないぐらいたくさんあります。

明確に分けておけば、目的にどれだけ近付いているのか、何が足りないのか、何ができているのか、どこが強みでどこが弱みで…などなど、必要なことが次から次に生まれては消えて、余計なことを考える時間すらありません。

自身の現在地がわかるので、論理的にコツコツと前に進めている感覚が掴めます。理想をファンタジーのままにせず、リアルなロードマップを実感することで楽しく前に進むことができています。


②小さな成功&失敗体験を積み重ねること

大きな成功をこれまで一度も経験したことがない私ですが、ちょこっとした小さな成功エピソードならいくつかありそうです。逆に失敗エピソードならば、それはもうココに書ききれないぐらいあることが自慢です。

いつも自身で設定した小さな目標(書くようなレベルでもなく)は、成果の是非を問わず、必ずやり遂げるように心がけています。失敗しても思った通りにいかない経験ができたことで次からはより良く改善できるだろうし、成功したらそれは自信に繋げて、次に進む原動力にすれば良い。

私自身、たくさん挑戦しようと心がけているからか本当に失敗ばかりです。最初から最後までスムーズに予定通り…そんなことは全くもってありません。前向きだけども「うまいこといかない」と、覚悟を決めて判断しているので、たまに成功した時の嬉しさったら最高です。

そんな失敗体験の山の中、ちょろっと見つける成功体験が小さな自信になっていたりします。
チャレンジして失敗し続ける自分を肯定することで、嫌な気分に浸る時間がもったいないようにも感じています。
小さな成功のために、小さな成功を得た時の満足感に期待しながら、コツコツ努力をしているプロセスがなんとも言えない楽しみの瞬間でもあります。


③信頼できる人間関係を積み上げること

人は1人で出来ることには限界があります。いくら能力が高くても、いくら精神力が強くても、いくら経験が豊富でも1人では仕事の天井がすぐに見えてきます。
とはいえ、ひたすら仲間が多くても連携が取りづらく、かえって非効率になることもあります。

…ど、どうしたらいいんだ!
と、嘆く前に立ち止まって考えてみましょう。

「1人だから効率が良く、全部自分でやった方が早いぞ」という思考回路の場合、"自分を信じて自分に任せている"という考え方になります。この信じるベクトルを仲間に向けて任せることで組織(チーム)としての力を最大化することができます。つまり何が言いたいのかというと、大切なのは信頼関係を構築することなのです。

本音で語り合える人間関係、時にはすれ違うことがあっても仕事上は信じて想いを託すことができる関係性、これが大切です。
丁寧に相手の立場に立ってコミュニケーションをとり、ささやかながら相手の役に立とうとする心構えを持つこと。そうすると、少しずつですが信頼関係が築かれていきます。

仕事は何をするかも大切ですが、誰とするのかもとても大切です。そして、その"誰か"との信頼関係を積み上げるのは自分次第。自身の価値観を相手に向ける(相手に押し付けてはいけません)、まさに仕事に対する考え方と同じ目線で人間関係に焦点を当ててみましょう。


目の前の仕事を好きになるためには、類い稀ない努力が必要です。なんとなくフワッと仕事と向き合っていては決して得ることができない、幸せな世界がそこには広がっています。
努力の過程においては目的と目標が整理でき、たくさんの経験値を貯めた上で信頼する仲間ができ、業種や規模にもよりますが、我々ならば何でもできるという全能感に満ち溢れてきます。
これこそが仕事に求める楽しさの原動力になるのではないでしょうか。

●人生すら豊かにできる

さて、ダラダラと長い文章を書いてきましたが、仕事を楽しむためには目の前の仕事を好きになる努力をしよう!ということです。

実際、私の周りでも「この人は楽しんでるなー」と思う方々は、愚痴こそ溢れるものの自身の仕事に対してポジティブに向き合い、どれだけ苦しい中でも楽しみという活路を見出そうと努力しています。

仕事をしていると思い通りにならないことばかり。
もとい、仕事に限らなくとも人生は思い通りにいかないということがデフォルトです。
むしろ生きているだけで最高ではないでしょうか。

だからこそ、せっかく貴重な時間を費やして誰かのお役に立てるような仕事をしているのだから、思い切って楽しむ思考に舵を切ろうではないですか。

よくSNSなどのメディアを覗いていると、現状を嘆いて誰かのせいにしているような発言が耳に入ることがあります。ある意味でパフォーマンス的な投稿かもしれませんが、大変もったいないと感じます。
現状を変えるには、まずは自分の意識を前向きに変えることが必要です。前向きになることすら何かのせいにして動けない場合は、まずは目の前のことから楽しみを見出してみましょう。きっと見つかるハズです。

仕事に従事する時間が多い現代人。

だからこそ、そんな我々の人生を豊かにするためにはちょっとした価値観の変化でいいのかもしれません。

仕事を通じて社会と繋がりを持てることはとても良いことです。せっかくの機会を活かしてみませんか。

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