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夏嶺 (なつね)
2016年2月24日 23:37
歌が聞こえるんだと、祖父は私に言った。春と夏の間の季節にだけ。その歌はおよそ人の声とはかけ離れているそうで、しかし雨を浴びながら、命ある事の溢れんばかりの歓喜を込めた歌だという。私も聞きたいと祖父に言ったが、ヒトにはもう聞こえんのさと、寂しげに笑うだけだった。 #掌編小説
2016年2月28日 01:07
美しい宵闇の空を見て、彼女は薄く笑った。痛い程冷えた空気の中でも彼女の凛と伸びた首筋は作り物めいて、寒さを感じさせない。綺麗ね、特にあの山の峰が。そう言った彼女に寒気がした。彼女は。...彼女は?彼女とは、誰だったろう。山の峰と空の境が混じり合っていく。じきに夜になる。#掌編