これ、お土産です

隠岐にいってきました 時系列順 吟行録が一番適切な呼び方のやつです

1.        三月の朝、ゼロになる方へ行く。出立を見送る人はなし

2.        擦過傷光れる保護フィルムになれど取り替えるのはやや面倒か

3.        余白の多い頁に春が反射する 太陽を直に見てはいけない

4.        内向性 ラベルを手に入れわたくしは壜へとろんと突き落とされる

5.        知っている港の規模は小さくて渡しと呼んだ方が適切

6.        雪嶺の三月にあることやその遠さや高さや黄砂や気温

7.        つかの間に日陰となれる場所にあるベンチで靴擦れのために冷える

8.        沖へ その果ての島へと春の波寄って帰らぬこともあったか

9.        港へとゆくなら後悔なきようにバスの車内に眼鏡をひらく

10.     京都-1として来たる米子にも京都+1となるためのバス

11.     あなうらの消毒は国歌斉唱に似る 隠岐は国立公園だから

12.     海や雪軌跡をつかの間抱いて光へ還す季節を待てり

13.     白昼の終わりの海の眩しさは水面を翔けて人を射抜ける

14.     海原に胎動のみがある晴れた日の夕暮にある頭痛持ち

15.     海という布は一枚浅い皺のうちにも無数の皺を持つのか

16.     爪美(は)しき老人が居る船内の時計を信じること難しい

17.     たんぽぽを島の子どもにもらってもよそ者だからうろたえておく

18.     内定を持って話をしていても文学部って恥ずかしいかも

19.     河口へと蒲公英を流すはめになることに子どもは気づけなかった

20.     制約の中の自由を愉しんで汽水の面に雨虎見ゆ

21.     うぐいすにまだ修練の余地があり春の入江の穏やかな夕

22.     もう花は見渡す限りなくなって 餞 刀剣女子にもください

23.     岸壁に影の魚は近づいて少し肌寒くなる菱浦

24.     俄なる訪(と)ひに吾とて驚けり無げの情けのままにやあらむ

25.     雨、後の風に荒れ森からの音澄んで羽織の裾を掴めり

26.     昨日より海は僅かに深くなり鶯ちゃんと歌上手くなる

27.     「しらしま」は波の小高い朝を行く 午前10時の2等船室

28.     窓枠の冷たいフェリーであっても眼鏡やワンカップや手のひら置く

29.     みんなみんな横になりたる船室に授乳ケープの隙間から足

30.     舫う神知りにし吾は舫う人初めて見たかのように見ました

31.     まあまあな船の揺れにもネギの浮く小さな海の静かな水面

32.     割り箸も置いてつかの間湯気立ちぬカップヌードル最後まで食う

33.     島を少し離れたときにぽくぽくと浮雲はればれと水平線

34.     眠い目をこすって(雲や船はすぐ変わるのだから)ふんにゃり起きる

35.     ぎゅうぎゅうに運ばれた人もいたよなあ 本土までの海峡で気づいた

36.     船外の温度わからぬ 船外は晴れている 船外という箱

37.     春の日焼けを恐れない 眩しさの中で見つけることも善いから

38.     米子まで鈍行に乗るサイダーをとうに飲みほし外套熱し

39.     もし次に住むのが海辺やとしても言葉はやさしくならんねやろな

40.     ババロアのケミカルいちごの色や味や大きな地面が揺れぬ安心

41.     伯耆富士 裾に残れる雪に窓冷える 逃した冬の大きさ

42.     髪の毛を梳けば海とかヤニの香に言葉を交わした人々思う

43.     思いつき略しておきで遊ぶのはモラトリアムの特権だろう