うたう

1. ミキサーの一部が光る 静かに 朝の青さに応えるように
2. きらしゃらな映画におわす美男かな 美男かな?ことわれず観に行く
3. 肉体も心も遠い恋をするひとはふたつの指輪している
4. まるいテーブルひとつで生きる人の円グラフPC・レジ袋・水
5. ボブ・ヘアーうなじのために買ってある六本セットの安いカミソリ
6. 歯磨きのときにわたしはぷぇってするだれといてもするしどこでもする
7. (生ごみが臭いのは水分のせい……)搾れるだけ搾ったら手を洗う
8. 「香水は服を脱ぐときにぶわっと」ぶわっと?「ぶわっと香るんだって」
9. 気をつけた柔軟剤のネイキッドリリーほんのりかりそめを着る
10. 片割れのイヤリングいつか友人に苦無(くない)かよ、って笑われたっけ
11. そうですか白黒つけないカフェオーレみたいな服もちょっとはあります
12. 解けない魔法で編まれた黒いレース地のエミリーテンプルキュートな衣(ころも)
13. 朝くらいこわくない声がききたい蛇口や歌えるくらいの曲の
14. だきしめてもらえない距離を遠いといえばこころ庭(ば)あまりに遠い
15. いつもTわたしのこころPきみを忘れるだけできみは死ぬO
16. でもひとが愛しあう画(え)は美しい。結論はプリンよりさきに来る
17. わからないのは友人の滅びゆく恋愛事情のあはれのところ
18. 産めば許されるとふたり思いつつ違う電車の乗り場へ向かう
19. 計画はかくかくしいね 日が沈む 熱間自由鍛造される
20. とろ火でも生きているからカーテンにわたしはたきしめられているらし
21. 「ね、言った通りでしょ」心臓のあるあたりの産毛 驚いている
22. きみ生きてぶわっと生きて何回も五月嵐になれ唯ひとつ
23. マレーバクのこどもに高速道路ありきみには夜の帰り道あり
24. そのわりにどんな指輪も左手の薬指へと赴任させるし
25. ふ、とする もそそ、とする しゅ、とする いつまでも善いからだになって
26. 暗いから映画のことを思い出し夏椿、あれもこれも夏椿
27. 明晰夢ではないことはわかる けどきみは夢からの青い光
28. 朝(あした)また青い間に逢えたから半覚醒に賛美をきみに
29. 麗しき時代といえるひとがいるだけ「憂き世かもしれないこともいつか霧、だろ」
30. 胸元にかけたと思っていた香水かみにもかかって初夏、日差したり