金森修『病魔という悪の物語 チフスのメアリー』読了

金森修『病魔という悪の物語 チフスのメアリー(ISBN:9784480687296)』を読みました。

社会に住む不特定多数の人たちの命を救うためなら、一人の人間、または少数の人間たちの自由がある程度制限されても、仕方ないことなのか。(「はじめに」より)

腸チフスの健康保菌者、そして、何十年も隔離されたメアリー・マーロンについての本です。先日読んだ『毒薬の手帖』の最初の方でチョロっと「腸チフスのメアリー」として出てくるのですが、私が不勉強で彼女について知らなかったので手に取りました。

腸チフスの健康保菌者であったメアリー・マーロンが収監されるまで、その後どう過ごしたかを追い、また他の健康保菌者についてや公衆衛生の歴史をサラッと触れている本。ちなみにこの著者は「メアリー寄り」に書いているところがあるので、冒頭の抜粋に力強く「イエス!」と答える人は違和感をおぼえるかもしれません。

私の最初の感想は
「人間過去から学ぼう?」というもの。
毎度毎度、古典やら過去のノンフィクションやら読むたびに思うこと。
そしてこれは、メアリーに対してではなく、メアリーを(移民を)取り巻く制度、メディア、(いわゆる世間と呼ばれるものの)様々な対応、反応についての感想。

今の新型肺炎の「空気」となんら変わらない。
噂話、デマ、「自粛警察」、外国人への感情、もちろん公の機関に対しての不信感も。100年前の話よ?この本の言っている事柄は。

やっぱり自分がわからないと感じるものに対しての恐怖、それらのストレスを発散させるための相手などは、人間求めてしまうのかしらと諦めすら感じてしまいました。

もし、あるとき、どこかで未来のメアリーが出現するようなことがあったとしても、その人も、必ず、私たちと同じ夢や感情をかかえた普通の人間なのだということを、心の片隅で忘れないでいてほしい。(「おわりに」より)

「言うは易し行うは難し」しかし、それでも暴走しないよう気をつけねば。

メアリーに対しては「強い人だなあ。」と率直に感じました。「健康保菌者」という知識が(当時の状況も鑑みて)不運にもなかったために不満、疑念だらけだっただろうし、パートナーや解放の裁判を担当した弁護士も早逝。でも収監後も、少しだったとしても理解者を得、最終的には収監された病院で働き、経済的にも得るものを得られた。遺産も理解者に分けて、墓石も自分で買ったって。

ウン十年、隔離されたら、私、こうやって生活できるかしら。その自信まったくない。抵抗だけじゃなく、如何にして自分のいる環境で生き抜くか。すごいなぁとさえ思いました。

そう、あと、読書そのものについても気づきが。

実は、前述した『毒薬の手帖』では「最悪の」という言葉を使ってメアリーが表現されていました。この本は立ち位置が異なる。
もし、同じ事柄を扱ったものがいくつもあるなら、やはり比較をしたほうがいいなと。
とある物事について、本をただ1冊読んで「そうだったのかー!」と落とし込んじゃだめだね。自戒。

今だからこそ、オススメの本。復刊してよかった。是非。
(ちなみに、今回は電子書籍で読んだため、抜粋にページ数載せられませんでした。文字のサイズが変えられるのは便利だけれど、機械音痴にはこういうところがつらい苦笑)

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