カダケス
ここは、スペインの小さな港町、カダケス。
フランス国境に近い、地中海沿岸の美しい町。今から26年前、縁あって1日だけ滞在したことがあった。
この町を訪ねた理由は、ひとつ。ここは、サルヴァドール・ダリの家がある町。ダリが残した作品には、この町で得られた数多くの風景がモチーフとされており、ダリが愛したこの土地を実体験するために訪れてみた。
カダケスの濃青色の空、海の色、独特の地形、そして住民が暮らす家々の壁が真っ白であるのは、鮮やかなナチュラルカラーに囲まれているが故の、着想の摂理と言えるような気がする。
今もよく、この町にいた時のことを思い出す。ダリが私と同じ心の着地点に降りたのかは知る由もないが、私はこの町の時の流れに身を置いていることに、静かなる幸福感が押し寄せてくることを体感していた。
いつまでも眺めていたい、囲まれていたい。自分が欲する風景がここにあるということ、その中に居られる時間があるということ。カダケスでは、人生の喜びのステージを見つけることができたような気がする。
私は、またこの町を訪れることができるだろうか。
オリーブ畑の丘陵地の、とても狭い崖に面した悪路をバスに揺られてこの町を目指している自分がかつていたこと、夢の先に描いていたい。
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