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ひとりで暮らすということ

駅から徒歩5分。鉄筋コンクリート。部屋は狭くても問題はない。建物の寿命は30年と聞くので、出来れば築年数は20年内。

チェックしたいのは、駐輪場が乱れていないか、ゴミ捨て場が綺麗に使われているか、治安の良し悪し、近隣付き合いはしっかり見極めておきたい。

それが、私の考えていた1人暮らしをする為の条件だ。

他にも出せばキリがないが、今はただその場を切り抜けるのであればそれでいい。この歳にもなって初めての1人暮らしだ。タイミングを逃してしまえば、恐らくこの生涯、出来なかったと言ってもいい。

年老いて、病気をして、か細くなる母を置いていくにはそれなりに勇気が必要だったが、母を家に1人残すわけではない。気の利かない兄がいるので大丈夫だと言い聞かせた。

1人暮らしへ向けて胸が高鳴っているのは事実。悪いことだけではない。

息を吸う。条件を一通り纏めた紙を手にし、不動産会社へと向かった。ここの不動産とは、今住んでいる実家でお世話になったのもあり、ある程度信頼している。早速、内見が始まった。


どれも、良いところがあれば悪いところもあるといったところだった。その日の終わり「どうでした?」と尋ねられ「悩みますね」と返す。答えは出ていないと言ってるのも同然だ。だが、その答えを待っていましたとばかりに「まだ、お時間はありますか?」と聞かれた。最後にもう1つだけ、いいですかと。

そのまま、不動産の車で目的地まで走らせていると、ラインの通知が1通入った。元号が令和になったという、留守番をしている兄からのメッセージだった。新しい時代が始まっていくのだなと、遠く、空を眺める。


最後に紹介された家は、駅から徒歩20分。築年数は50年を超えるが改築工事を行って中はとても綺麗な木造アパートだった。どうしても、築年数に目を向けられていたら、リフォームして新しくなったとしても紹介することができないらしい。


家に入ってまず、何より、感動したのが

「2口コンロ!」

食べることが好きな私にとって、2口コンロがあることはかなり大きかった。今までの内見では1口コンロしか見当たらなかったので1人暮らしというのはそういうものなのかと思っていたのである。

キッチンが広いことが何より嬉しくて、建前であげた条件の7割は当てはまっていないかったが、そこに決めた。そこが良かった。


引っ越しをする際の段ボールは4つほど。大きな家具家電もそこまでないので2時間もしないで終えた。こんなものか。あんなに1人暮らしへの壁は高く感じたのに、引っ越してみると軽く乗り越えてしまうものである。


そのあとは、大家さんやお隣さんに挨拶をしてまわった。このご時世、挨拶をしない方がいいと言われるが、やってみると相手の暮らしを確認できるようで安心する。挨拶をして分かったことだが、この物件は2DK、家族向きでもあるのか、お隣さんは4人家族で赤ちゃんもいるみたいだ。


夜、風呂場では、あやす声や、わらべ歌を歌う声が聞こえてくる。悪くはない。赤ちゃんがもしも喋り始めたことを確認した日には、恐らく1人で感激するのではないか。そんな未来が見えた。


ここは、生きている心地がする。

まだまだ生活をするにしては足りないことだらけの1人暮らしではあるが、マイペースに生きていこう。

この家と、環境とともに。



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2019年4月に引っ越してすぐに書いたエッセイ「ひとりで暮らすということ」でした。若干修正も加えています。

1人暮らしを始めおよそ半年。冷蔵庫を買えた時の感動や、冷暖房器具がないときの絶望感。なけなしのお金でどこまで自分の好きなように選択して暮らすか、その時間が何より愛おしい日々です。

最近、毛布をぐるぐると巻いて、果実とシナモンを入れて温めたホットワインを飲むのが好き。それに、誕生日プレゼントにホットカーペットを頂いてかなり強気でいます。これさえあれば冬は乗り越えていけるのでは?



集まり次第、こちらのnoteにてどんな事に使ったのか報告をさせて頂きます。サポートの調理はお任せあれ!