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びっくりのインド ● 21 ● フィットネスクラブ

インドで数ヶ月生活するにあたって、食事するところ以外で私がまず探したのはフィットネスクラブだ。
運動せずにいると肩凝りがひどくなり、そのうち身体が重く感じるようになって風邪を引きやすくなるからだ。
近くにフィットネスクラブがあるのか同僚に訊いたら 「良いところがあるからそこへ通ってみたらどうか」 と勧めてくれて、次の日に早速、一緒に行った。

そこはフィットネスクラブというより個人経営のジムだった。
3 ヶ月分まとめて支払いをして、即時、入会できた。
いくら払ったかは覚えてないが、確かインドの平均年収 (2008 年当時 4 万円) の 1/4 ~ 1/3 くらいだったから、かなりの高額だ。
領収書を渡されることもなく、会員証などもなく、30 〜 35 歳くらいのオーナー兼トレーナーの男性が、会員かどうかを顔を覚えて判断するようだった。
ほぼ毎日通ったところ、顔ぶれはだいたい決まっていて、時間帯によってメンバーが変わることを考慮しても、会員数は多くて 50 人くらいだと思う。
むかし私が英会話の講師をしていたとき学校には約 200 名の生徒がいて、ほぼ全員の顔と名前を覚えていたことを思えば、50 人の顔を覚えるのは難しいことではない。
ましてや、わたし以外の外人を見たことはないから、誰の顔を忘れても私を見て 「誰だっけ?」 ということは、まず、ない。

わたしが行く時間帯は多くて 6 人ほどがいて、そのうち女性は 1 人いるかいないかだった。
公共の場所で男女が親しく会話するのは見たことがないが、そのジムでは男性同士も会話することなく、みんな黙々とトレーニングをしていた。

休館日があったかどうかは覚えていない。
多分、午前中にオープンして、19 時か、遅くても 20 時には閉まったと思う。

ジムは古いビルの 2 階にあって、大きさは 3 LDK のマンションくらい。
4 畳くらいのストレッチエリア、ウォーキングマシンが 2 台、あとはフリーウェイトのみ。
初日にトレーナーがストレッチの仕方と、どのウェイトを使い、どんなトレーニングをするかを教えてくれて、あとは何日かに 1回、「ここはこうした方がいい」 というようなアドバイスをくれた。
入会書はなく、名前は最初の日に口頭で伝えただけだから、恐らく彼は最後まで私の名前を知らなかったのではないのだろうか。
彼が私に話しかけるときは、いつも "You should ..." から始まった。
私が何か月分を前払いしたかを果たして彼は覚えていたのか、帰国前に 「日本に帰るから、ここに来るのは今日で最後です」 と伝えて、恐らく "Good luck" くらいのことは言ってくれたような気がするけれど、それも記憶にない。
それはそれで気楽でよかった。

ロッカールームはなく、試着室らしきものが 1 つあるだけで鍵はなかった。
男性も女性もそこで着替えて、自分の荷物を持ち歩きながらトレーニングをする。
これが日本なら 「面倒くさい!」 と思うところだけれど、自分の荷物が目の届くところにあるのは、むしろ安心だった。
トイレは 1 つ、水洗だけどトイレットペーパーはなし。

海外では身の危険を感じない限り、私は 『郷に入っては郷に従え』 を実践することにしている。
普段と違うことをすることで、いつも何気なくやっていたことが実は非効率的だと分かったり、『当たり前』 が本当は当たり前でないと気付いたりするからだ。

ただ 1 つ、最初は慣れないことがあった。
それは、ウォーキングマシンで歩くときに TV から流れてくるミュージックビデオだ。

インドの映画やミュージックビデオを見たことのある人は分かると思うが、静かな場面から急にドバっと人が現れて一斉にダンスを始めるものが多い。
例えば こんな感じのミュージックビデオ だ。
アメリカン POPS にならされていると、このリズムで歩くのは難しすぎて、初日は スキップができない人 みたいになった。

ウォーキングマシンは元々英語では treadmill と言う。
tread を辞書で調べると 歩く と説明されているが、どちらかと言えば、私には 一歩一歩踏み出す イメージ。
mill を Google で検索したら風車や水車の画像がたくさん出てくるように、風や水でくるくる回って動力に変える部分のこと。
この 2 つから私が連想するのは、回し車 (ハムスターウィール = Hamster wheel) だ。
ウォーキングマシンに乗ると、ハムスターウィールを回している気分になり、なんとなく やらされてる感 があって、どうも楽しめない。
だから 「目的は歩くことではない、iPod で音楽を聴くことだ!」 と自分を納得させ、ついでに歩いている と思ってモティベーションを上げている。
せっかくバンガロールにいるのだから 「インドの音楽を聴きながら歩こう」 と決めて、ミュージックビデオを見つつ、自分はリズム感のないハムスターだ と想像して歩いたら、楽しめた。

「なぜあんなに歩きにくかったんだろう?」 と思って、いま改めてインド音楽のリズムを調べたら 面白い動画 を見つけた。
インドは地域差が大きく、これが THE INDIA かどうかは定かではないものの、このリズムに合わせて早く歩くと小走りになってしまうし、遅く合わせるとゆっくりすぎる。

ネットで インドのリズムを非常に詳しく動画で解説している人 (英語のみ) も見つけた。
15 ビート? 16 ビート?
15/16 ? 17/16 ?
15 ビートとか 17 ビートとかを 16 分音符でカウントする?
専門的すぎて全く意味が分からない。
そこで 16 分音符だけで構成される曲 という動画を覗いてみたら私のリズムは完全に崩壊した。

そら歩きにくかったはずだ ...。

ちなみに、ウォーキングだけでなく、しっかり筋トレもしたので、インドにいた間は非常に健康だった。


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